第320話【ルーク】
「よーし、投げますよ~」
「オーケー」
俺は剣の鞘にロープを結び付けて頭上の排水口から頭を出しているルークさんに向けて投げた。
「あぶなっ!!」
「避けるなよ!!」
「あ~、ごめんごめん」
俺が投げたロープ付き鞘の勢いが強かったので、受け止めるはずだったルークさんがビビって避けたのだ。
「ちゃんと取ってくださいよ~」
「分かってますよ」
「じゃあ、もう一度行くぞ!」
「はーーい」
「それっ!!」
「キャッチ!!」
よし、今度はちゃんと受け止めてくれたぞ。
「ロープはゴーレムに繋ぎました!」
「じゃあ、レイラ姫様から上げるからな~」
「了解~」
「がるる~~」
レイラ姫様はロープが巻かれた鞘を踏み台にしてロープを掴み上へと引き上げられて行く。
上ではゴーレムが怪力で引き上げているのだろう。
もうクレーン車並みのパワーですな。
では、次は俺だ。
あれ、なかなかロープが降りて来ないぞ?
どうしたんだろう?
「ルークさーん、何かありましたか~?」
返事が無いな?
えーーと、まさか置き去りですか?
それは、無いよね。
家具を異次元宝物庫に片付けているメイドたちから離れたヒルダが言ってきた。
「もしかして、あのカップルは逃げたのではないでしょうか?」
「ま、まさか……」
俺が否定しながらヒルダの顔を見たら、彼女は怪しく笑っていた。
「なぜ、笑う!?」
ヒルダはそっぽを向いて「失礼」と言うと家具の片付けに戻って行く。
「それにしても、あの野郎……」
俺が愚痴を溢した刹那だった。
排水口からロープが降りて来る。
顔を出したルークさんが笑顔で言った。
「いやー、アスランさん、聞き取り作業が終わって誤解が解けました。上がって来てくださいな」
聞き取り作業?
誤解?
なんだよ、それ?
まあ、いいか……。
メイドたちも家具を片付け終わって異次元宝物庫内に撤収したし、俺も上に上がるかな。
こうして俺もルークさんのゴーレムによって引き上げられた。
俺が狭い排水口の入り口を潜ると、中は外と異なり広い通路だった。
どうやら入り口だけ小さかったようだな。
俺は笑顔でルークさんに訊いた。
「ところでさっき言ってた誤解ってなんですか?」
ルークさんも笑顔で答える。
「いや、だいぶアスランさんにレイラが懐いてたから誤解しただけだよ」
「だから誤解ってなんだよ!?」
「キミまで獣になったかと思ってね!!」
「なるか、ボケ!!」
「がる?」
俺とルークさんが額を付き合わせて言い争っているなか、レイラ姫様だけが不思議そうに黒山羊頭の首を傾げていた。
まあ、兎に角だ、誤解は解けたらしい。
俺たちはダンジョンをルークさんの案内で引き返した。
「出口は分かるんですか、ルークさん?」
「ああ、なんとなくだけどね……」
「随分と曖昧だな」
「今回のランダムダンジョンは落とし穴のトラップが有ってね。レイラがそれに引っ掛かってしまったんだよ」
「それで、あそこに流れ落ちたと」
「キミは?」
「同じ理由です……」
「へぇ~、そ~なんだ~」
うわ!!
嫌らしく笑ってやがる!!
「それよりも、僕たちはこんなに長い時間、このランダムダンジョンに居たことがないんだ」
「今、このダンジョンに入って、どのぐらいの時間が過ぎたんだ?」
「おそらく九時間……」
「九時間かあ~。ちょっと長いな」
「僕のゴーレムも、あとどのぐらいもつか……」
どうやらタイムリミットが近いようだな。
これは兎に角一度ダンジョンを出て体制を整えなおさないとならないようだ。
長居しすぎたようだな。
ルークさんはゴーレムが無くなれば、たたの人だろうさ。
戦力外になってしまう。
それどころか足手纏いかも知れない。
「あと、どのぐらいで出口に到着しますか?」
「たぶん、一時間かな……」
これは無事にダンジョンの出入り口に到着できればいいんだが……。
「まあ、今は急ぎましょう……」
「ああ……」
「がるるっ」
俺たちはダンジョンの通路を黙々と進んだ。
どうやら排水口エリアは脱出できたようだが、まだ出口は見えて来ない。
それでもモンスターに遭遇しないのは幸運だった。
今は戦闘よりも早く二人をダンジョン外に出してやるのが先決だろう。
俺一人なら、ここで野宿してもいいんだけれどね。
俺的には一人でさっさとダンジョン攻略を成功させたいのだ。
ダンジョンの秘密、魔女の秘密、ロード・オブ・ザ・ピットの秘密を暴きたいのだ。
「ああ……」
ルークさんが声を漏らすと、前方を歩いていたゴーレムが崩れ落ちた。
あらら、ゴーレムの有効時間が切れたようだな。
「アスランくん、これで僕の魔法は終わりだ……」
「あとは任せて置けってば。あんたはレイラ姫様を守ってな」
「分かった……」
こうして俺が先頭でダンジョンを進むことになった。
しかし、進んでいると、周囲の壁にへったくそな壁画が見え始めたのだ。
これは、俺が落とし穴に落ちる前に見た壁画だな。
だとすると、この辺はラットマンが生息するエリアだろう。
俺一人なら対した相手じゃあ無いけれど、今はお荷物が二人居る。
それが気がかりだな。
そして、俺は広い部屋に出た。
俺がランタンの明かりを手に部屋に入るとあちらこちらで影が動き出す。
噂のラットマンだ。
かなりの数が居る。
三十匹ぐらいかな?
俺は通路に控えて居る二人に言った。
「俺が戦うから、あんたらは隠れてろ!」
「レイラが居れば、隠れるのも容易いよ!」
「がるるっ!!」
レイラ姫様が唸ると二人の姿が消えた。
インビシブルの魔法だろう。
なるほど、便利だわ。
「チュー、チュー!!」
ラットマンたちが縄張りに侵入してきた俺に気づいたようだ。
各々各自が様々な武器を手に持ってこちらに迫る。
「さてさて、やっと戦闘だぜ!!」
「チュー、チュー!!!」
【つづく】