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第312話【尋問調査】

息子のルークが鍛冶屋に帰って来たのは、日が沈み掛けた時間帯である。


ルークは俺を見て嫌な顔を見せていた。


「あんた、晩飯でも食べて行くかい」


そう俺に言ったのは鍛冶屋のオヤジのダースだった。


ぶっきらぼうに言うダースに俺が訊く。


「いいのかい。俺みたいな客でもない男に飯なんて振る舞ってさ?」


この異世界では場所によっては貧富の差が激しい。


三食食べられない貧しい人も少なく無いのだ。


それなのに晩飯を振る舞ってくれるなんて珍しい話である。


「この町は、食料が豊富でな。すべては姫様が生け贄に捧げられたお陰なんだが……」


父の言葉に息子が歯を食い縛りながら俯いた。


「折角だが、飯はいいよ。それより俺は息子さんに用事があるんだ」


「そうか……」


一言そう言うと、オヤジさんは店の奥に引っ込んで行った。


俺は息子のルークに言う。


「俺が来た理由は、分かってるよな。今度は逃がさないぜ」


ルークは俯きながら答える。


「余所で話そう……」


そう述べるとルークが踵を返して歩き出した。


俺もルークの後ろに続く。


ルークはしばらく歩くと人気の少ない町の隅で歩みを止めた。


壁の側で言う。


「聞きたいことって、やっぱり……」


「そうだよ、分かってるよな」


するとルークが突然跪いた。


ルークは両膝と両手、それに額を地面に擦り付けながら謝罪した。


土下座?


「すみません、突然襲いかかって!!」


うわー……、土下座ですよ。


この世界にも土下座文化って有るんだ~。


「何故、俺を襲ったんだよ?」


「レイラと戦ってたから……。また、レイラが人に襲いかかったのかと思って……」


「じゃあ仲裁に入ったってことかい?」


「そ、そうなります……」


「じゃあ、そう言うことにして置いてやろう」


ルークが頭を上げた。


「本当か……?」


「本当だとも」


「あとから嘘だよ~んっとか言わない……?」


「言わない言わない」


「本当に本当……?」


「諄いな、あんた……」


「す、すみません……」


「兎に角、立てよ」


「は、はい……」


俺に言われてルークが立ち上がる。


「じゃあ落ち着いて話そうか。なんでお前は森でお姫様と会ってたんだ。逢引か?」


「ミンチの?」


「それは合挽きな……」


なに、こいつ……。


ちょっとウザイな。


つまらないボケをかましてくるよ。


「俺が言ってるのは、お前とお姫様は、なんで密かに森の中で会ってたんだ?」


「えっ?」


ルークがキョトンとした顔をしてから言う。


「密かになんて会ってませんよ。ただ森の中の滝を、デートの待ち合わせ場所に選んだだけですが」


あー、分かったわ。


こいつは天然のボケキャラだな。


間違いないぞ。


それならそれで、そう扱うまでよ。


「じゃあ、デートするってことは、お前らは恋人同士なんだな?」


ルークがモジモジしながら言った。


「そんな~、恋人なんてぇ~。そりゃあ僕は姫様を好いてますが、彼女が僕を好いてるかは分かりませんし~」


あー、マジでウザイ!


微妙にウザイがジリジリと押し寄せて来るタイプだな!


「でも、子供のころですが、一度だけチューをしたんですよ、僕たち」


「あー、そうですか……。良かったね……」


子供のころのチューと入浴はノーカンだよ。


そんなものは子供のころの思い出でしかないわい。


まあ、分かったわ。


なるほどね。


兎に角、子供のころからの知り合いなのか。


たぶんだが、オヤジさんが城の元兵長らしいから、それが切っ掛けなのかな?


「それで、滝の周りで何してる。エッチなことじゃあ無いよな」


「当然です!! 侮辱ですか!?」


何故、怒り出す!?


「僕たちは、そんな不健全な仲ではありませんよ!!」


あー、もー、うぜえ……。


「お前が奥手過ぎてハレンチな行為に出れないのは分かってるからさ、落ち着けよ……」


「ぼ、僕が甲斐性なしだって言うんですか!!」


えー、突っ掛かって来るの~。


甲斐性なしだろ~。


認めろよな~、ボケナスが~。


「分かったからさ、森の滝で何をしてたんだ?」


ルークは深呼吸して心を落ち着かせてから言った。


「ダンジョン探索です」


ダンジョン!?


おいおいおい!!


予想外のもんが出て来たな。


まさかあそこにダンジョンが在るのか?


いや、でも、俺はあの周辺を隈無く探したぞ。


そんなダンジョンの入り口なんて無かったわ。


「あの辺にダンジョンなんて無かったぞ。俺は冒険者だ。探索に自信があるから、ダンジョンの入り口が在るなら見落とすはずがない」


「見えない扉が在るんですよ」


またインビシブルか……。


「しかも鍵はレイラ自身なんですよ」


「お姫様が鍵なのか?」


「はい」


これは特殊なダンジョンのようだな。


ますます面白いぞ。


すると突然ながらルークが昔話を語り出す。


「数年前の話です。ハン君主様が体調を患いレイラが城を出始めたころに、彼女が幼馴染みの僕のところに訪ねて来たんです」


やっぱりこいつら幼馴染みか。


でも、身分が違うよね。


ロミオとジュリエット状態なのかな。


「そして彼女が言ったのです。魔女がたずねて来たと」


「えっ!?」


ウソ~ん。


やっぱり魔女の登場ですか……。


やっぱりロード・オブ・ザ・ピットとセットなのかな?


でも、まだ、別人の可能性も有るぞ。


「魔女ってどんな成りなんだ?」


「僕は会ったことは無いのですが、レイラの話だと黒山羊頭を被った白いワンピース姿の少女だったらしいです」


やっぱりアイツだよ!!


たぶん俺が知ってる魔女だよ!!


「レイラが顔を隠していたマスクが有るでしょう。あれはその魔女から貰ったって言ってました」


「な、なるほどね……」


「そして、レイラは魔女からダンジョンの存在を教えられ、僕と一緒にダンジョン探索を始めたのです」


てか、こいつら二人でダンジョン探索なんて出きるのかな?


だって剣の腕は素人だったもんな。


「ほら、レイラはインビシブル系の魔法が使えるから生命体のモンスターは不意打ちとか出きるし、僕はこう見えてもゴーレム系の魔法が得意なんですよ」


ゴーレムマスターかよ!


なら鍛冶屋なんて辞めてしまえ。


「でも、二人だとなかなかダンジョン攻略が進まなくって……」


「冒険者を仲間として雇えばいいじゃあないか」


「冒険者なんて信用できません。ましてや依頼人が生け贄のお姫様ですよ。いつ裏切られるか分かったもんじゃあありませんよ……」


「まあ、確かにな~。でも、なんでお前らはダンジョン探索をするんだ?」


「魔女がレイラに言ったそうです。ダンジョンの奥に生け贄の呪いを解く鍵が有るそうな。それがどんな物かまでは分かりませんが」


「それで二人で探索か~」


「はい」


「呪いを解く鍵かあ~。それで生け贄の呪いを解いたら、この町に施された豊作の加護が消えるんじゃねえ?」


「えっ、何故……?」


「だって呪いが解ければ加護も消えるのが普通だろ。呪いだけ解かれて加護だけ残るって、考えが甘くないか?」


「そ、そうですか……。ぼ、僕は冒険に疎いので良く分かりませんが……」


「まあ、それは、呪いを解いて見ないと分からないがな」


「そ、そうですよね~。解いて見ないと分かりませんよね~!」


都合の良いほうに乗って来たな、こいつ。


「よし、まあいいや。じゃあ次にダンジョンに入る際は俺も一緒に行くぞ」


「えっ? な、何故です……?」


「俺も魔女とロード・オブ・ザ・ピットに因縁があってな。そのダンジョンにいろいろと興味があるんだ」


魔女が何を考えてレイラをダンジョンに誘導したかは分からないが、魔女とロード・オブ・ザ・ピットの情報を得る良い機会だ。


ヤツらのことを知れば戦いの役に立つ。


情報は武器だからな。


また絶対に、俺とヤツらが衝突する機会が来るはずだ。


その時に備えて置かねばなるまい。


ルークが俺に問う。


「因縁ってなんですか。我々のダンジョン探索に加わるほどの因縁なのですか?」


んん~、どう答えようかな?


インパクトの弱い回答だとダンジョン探索に入れて貰えないかもしれないぞ。


あっ、そうだ。


俺は左腕のプレートメイルを外して鋼鉄の剛腕を見せた。


そして、凛とした表情で言う。


「俺も魔女に呪いを掛けられていてね。もしもそのダンジョンに呪いを解く鍵があるのなら、俺も知りたいんだ」


はい、ウソです。


ウソコキました~。



【つづく】

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