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第301話【記憶の糸】

紅葉婆さんたる魔法使いギルドのマスターは、魔法使いと言うよりも魔女のように窺えた。


高い鼻に、隙間だらけの白髪ロン毛。


矮躯な体は傴僂で枯れ木のように細い。


今はちゃんとローブを羽織ってくれたが、そのローブの下がノーブラでノーパンなのはバレている。


あー、もー、想像したくないわ~……。


俺の呪いだってピクピクしないよ。


「それじゃあ客人、こちらに座りなさってな」


俺たち三人は、魔女紅葉に促されテーブル席に腰を下ろした。


我々と紅葉婆さんが席に付くと、隣の部屋からパンダゴーレムがお茶を運んで来た。


パンダは器用にお茶を配る。


ここにもパンダゴーレムが居るとは……。


このパンダゴーレムは、誰が作ってるんだろう。


確かに俺が貰ったパンダゴーレムの修理にゴモラタウンに出さないとならないとか言ってたよな。


もしかして、生産地はゴモラタウンなのか?


でも、この辺でパンダが生息しているなんて聞いたことがないぞ?


そもそもパンダって、この異世界のどこに生息しているんだろう?


まあ、いいか。


今はそれどころじゃあない。


俺たちがここにやって来たのは、ハンパネルラの記憶を消したヤツを知るためだ。


テイマーのハンパネルラは、誰かの指示でケルベロスを町の中に持ち込んだのだ。


そして、何らかのトラブルで逃がしてしまった。


もしくは、何らかの策略で、わざとケルベロスを逃がしてハプニングを演出したのかも知れない。


どちらとしても、なんのためだ?


何故に、そんなことをするんだ?


まあ、すべてはハンパネルラの記憶の中に秘密が潜んでいるはずだ。


その鍵の一つを知るために、今ここに来た。


ハンパネルラの記憶を消せるほどの魔法使いを知るために──。


「それでえ、久々にギルガメッシュ坊屋が私のところに来たのは、何を訊きたくてかい?」


「それは──」


ギルガメッシュが話し出そうとした刹那、紅葉婆さんが話を切らずに続きを語る。


「大体は、私の半生の物語を話したはよねぇ。初恋の話、ファーストキスの話、処女喪失の話、結婚と出産の話、離婚と再婚の話、まだ他に何が聞きたいんだい?」


全部聞きたくねえな……。


てか、ギルガメッシュは紅葉婆さんの個人的な人生物語を全部聞かされたのかな?


それってかなりの拷問だよね……。


「それじゃあ、今日は初めての輩も居るから、一から全部話して聞かせようかえ」


紅葉婆さんの恐ろしい提案に、すぐさまスカル姉さんが対応した。


「遠慮します!!」


力強い否定だった。


流石だぜ!!


助かったわ!!


こんな時こそ味方で居てくれるのが有難い人だよね!!


「じゃあ何から話して聞かせようかね~。やっぱりまずは初恋の話からかのぉ」


聞いてね!?


このババア、聞いてないよ!!


スカル姉さんの強い否定を耳に入れてないぞ!!


聞こえてないのか!?


耳が遠くて聞こえてないのかよ!!


これは厄介なタイプだぞ!


耳が遠い老人は認知症の老人の次に厄介な老人だぞ!!


さあ、どう出るスカル姉さん!?


ここはあんたのターンだ!


「もー、困った婆さんだな……」


スカル姉さんが席を立つと紅葉婆さんの後ろに歩み寄った。


何をするんだ?


後ろから耳元で叫ぶのか?


背後に立ったスカル姉さんが、突然拳を振り上げた。


まさか!!


「お婆さん、話をちゃんと聞いてね!!」


バコンっ!!


殴った!!


後頭部を拳で殴りましたよ!!


老人相手にバイオレンスな行為はアカンだろ!?


てか、作者が訴えられるぞ!!


このドクトルにはモラルってもんが無いのかよ!?


「あら、ギルガメッシュ坊屋じゃないか、もう来てたのかい?」


婆さんの記憶が巻き戻った!!


「確か記憶を消す魔法について訊きたくて訪ねて来たんだよね」


「は、はい……」


治ってる……?


治りましたか、婆さん!?


「よし、治ったようね」


そう呟いたスカル姉さんが席に戻る。


ショック療法ですか!?


壊れた電化製品も叩けば直るって言う原始的な治療法ですか!?


人間に効果的でも老人相手に使ったらアカンだろ!!


老人を労ろうよ!


てか、そんな暴力的な治療法は、まずハンパネルラに試すべきだったんじゃね!?


「それで、記憶を消す魔法の何が訊きたいのかね?」


あー、でも、殴られた本人は頭の回路が綺麗に繋がったようだからいいのかな……。


本当にいいのか……?


「紅葉婆さん、この町で記憶を消す魔法を使える者が居るかを訊きたい」


「んー、そうだね~。おそらく私が知る限り、それだけのレベルを有した魔法使いは少ないはずだよ」


それなら犯人が絞れる。


「誰ですか?」


「まずは私は言わずとしてだ。他にはうちのギルドのアズマイラ嬢ちゃん、メビウス坊屋、それとゾディアック坊屋ぐらいかしらね」


へぇ~、ゾディアックさんも入るんだ。


「まあ、それは予想出来た面々だ」


ギルガメッシュの言葉に紅葉婆さんが首を傾げた。


「私が訊きたいのは、記憶を消す魔法を悪用しそうな人物なんだ」


「そうなると、うちの三人は除外だね。あいつらは、善人ではないが、悪人でもない。それに人の記憶をいじる怖さを心得ている。私が直々に教え込んだからのぉ」


「人の記憶をいじる恐ろしさ?」


スカル姉さんの言葉に紅葉婆さんが噛み砕いて説明してくれた。


「人の記憶って者は単純じゃあないのさ。複雑に絡まった複数の糸のような感じが正常なんじゃわい。そこから記憶を抜くってことは、縺れた糸から一本だけ糸を引き抜くようなもんなのさ」


「無理矢理に記憶の糸を引き抜けば、すべてが絡まりもう戻れなくなるってことなの?」


「お嬢さん、賢いわね~」


そうか?


誰でも分かるだろ。


「お嬢さんだなんて、嫌だは、お婆様ったら~♡」


スカル姉さん、お世辞です。


真に受けないでください……。


「なるほど、それであのテイマーは、頭が呆けたってわけか……」


ギルガメッシュが言う通り、ハンパネルラがボケた理由は良く分かった。


記憶を消す魔法の影響だろう。


ただ、誰がその魔法を使ったかが分からない。


そこでギルガメッシュが新たな名前を出した。


「では、紅葉婆さんは、うちのアマデウスが記憶を消す魔法を使えると思うかね?」


おお、凄いストライクゾーンを攻めて来たぞ。


あいつは外角いっぱいだもんな。


てか、もう確信部分だよね。


一番怪しい人物だもんな。


それで、紅葉婆さんの回答は?


「あの子なら、余裕で使えるでしょうね。うちの三人を含めて、この町でトップクラスの魔法使いだよ。アマデウス坊屋が、そのぐらいの魔法が使えなくってどうするんだい」


ギルガメッシュが難しく顔で腕を組んだ。


やはりハンパネルラの記憶を消したのは、アマデウスなのだろうか?


濃厚だよね。


あとは証拠を掴むだけか?


ここでギルガメッシュが話を変えた。


「記憶を消す魔法とは別だが、この町にケルベロスを連れ込んで、何を企んでいると思いますか?」


「外のケルベロスは落ち着いたのかえ?」


「全部退治しました」


「じゃあ、次は退治した体と頭の数を合わせて置くんだね」


「何故ですか?」


「ケルベロスの頭は、この町に在る地獄門を開く鍵の一つだからだよ」


「やはり、それですか……」


やはりってどう言うことですか、ギルガメッシュさんよ!!


この町に地獄門とかって言うヤバそうな門が在るんですか!?


てか、そのトラブルに、俺は今現在どっぷりと巻き込まれてますよね!?


俺、早く旧魔王城に旅立ちたいんですけど!!


なんかスゲー遠回りしてませんか、俺!?


もうアマデウスを見付けて、後ろから斬り捨てようかな。


辻斬りってことで終わらせようか……。


そのほうが早くね?



【つづく】

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