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第293話【冥土】

「ヘルハウンド?」


俺はゴリが出したモンスターの名前に首を傾げた。


その声を聞いた血塗れのカンパネルラ爺さんが、うつ伏せで倒れたまま話し始める。


「ヘルハウンドって言ったら地獄の番犬だろ。主にブラックドックや三つ首のケルベロスを指すモンスターの種族名だ」


へぇー、ヘルハウンドって種族名だったんだ。


俺はてっきり固有モンスターの名前だと思ってたぜ。


カンパネルラ爺さんが血だらけの顔面を地面に押し付けたまま語っていると、ゴリが俺の側に寄って来て訊いた。


「なんだよ、この爺さんは……?」


「シルバーウルフたちの子供を仕付けるために雇ったテイマーだ」


ゴリは俺の話を聞いたあとに後ろのシルバーウルフたちを見た。


「なあ、アスラン?」


「なんだよ、ゴリ?」


「なんでオアイドスの野郎は全裸で狼に抱かれてるんだ?」


「子供たちに乳をあげてたんだよ」


「で、出るん……?」


「さ、さあね……。でも子供たちはしゃぶってたぞ……」


「あの野郎、また変な遊びを覚えやがったな……」


俺はゴリから離れてカンパネルラ爺さんにピュアヒールを施してやる。


「す、すまん。助かったぜ……」


「でえ、ゴリ。そのヘルハウンドは一つ首のワンちゃんか、それとも三つ首のワンちゃんか?」


「俺が見たのは三つ首の珍獣だったぞ。だから珍しいと思って皆に知らせに来たんだ。見に行くだろ?」


おおっ、確かに面白そうだな。


これは見物に行ってみるか。


「よし、じゃあ皆で見に行くか。オアイドス、早く服を着ろよ」


「なんで?」


「なんでじゃあねえよ! 見に行かないのか!?」


「行くよ行く」


「じゃあ服着ろよ」


「しかたないな~」


オアイドスが服を着終わると、俺たち四人は徒歩でソドムタウンを目指した。


「ところでスカル姉さんはどうした?」


俺が訊くとゴリが答える。


「ドクトルならガイアちゃんと仕事のはずだぜ。おそらくソドムタウンに居るよ」


「ガイアと一緒で仕事になるのかよ?」


「そんなの俺が知るかよ」


確かにゴリに言っても仕方無いか。


「じゃあ、カイマンは?」


「バイマンも町で物乞い中のはずだ。それとカイマンじゃあねえよ。いい加減に名前を覚えてやれよアスラン」


「物乞いか~……」


そして、俺たちむさ苦しい四人組がソドムタウンに到着すると、町は昼間っからワイワイと賑わっていた。


子供も老人も走って町の中央部に向かって進んで行く。


「昼まっからこんなに賑やかなのは珍しいな……」


「ああ、この町の昼間は出涸らしだからな。それが珍獣の到着で大賑やかだわ」


「ところでケルベロスってどうやって捕獲されたんだ?」


「捕まえたのは南の炎の山からだそうな。まあ捕まえたヤツがテイマーなら、捕獲ぐらい出切るんじゃあねえの?」


もしかして、カンパネルラ爺さんより息子のほうがウデコキじゃあねえの?


スカウトする相手を間違えたかな……。


今からチェンジ出来るならチェンジしちゃおっかな?


まあ、もうちょっと詳しく訊いてみるか。


これ以上の地雷は踏みたくないしよ。


「それで、どうやってケルベロスを連れてきたんだ?」


「俺が見た時には大八車にグルグル巻きに縛り付けてたぞ。それを男たちがワッセワッセって引っ張ってやがった」


「そりゃあ、大変だな」


そこで俺はもう一つ疑問を抱いた。


「ところで、なんで生け捕りにして、こんな町に連れてくるん?」


ゴリも少し考えてから言う。


「さあ、それは俺も知らんな」


なんのために、わざわざケルベロスなんて危ないモンスターを生け捕りにして、こんな冒険者と娼婦の町に連れて来るんだ?


俺が考えながら歩いているとカンパネルラ爺さんが真剣な声色で答えた。


「この町にケルベロスを連れて来る理由ならば、決まってるだろ……」


俺は振り返ると後ろを歩いていたカンパネルラ爺さんに訊いた。


「決まってるって、なんだよ?」


「今の若いもんは知らんのか。まあ、昔も信じてたのは一部の冒険者だけだったからな……」


「信じてた?」


カンパネルラ爺さんは、遠い目で空を見上げながら言った。


そんな渋い仕草すら糞ムカつくな。


「このソドムタウンを作ったのが冒険者と娼婦なのは知ってるよな、お前らも」


「ああ、知ってるぜ」


オアイドスが手を上げながら言う。


「私はこの町に来たばかりだから何も知りませ~ん」


するとカンパネルラ爺さんが順を正して語り出す。


「この町は冒険の最前線に建築された砦を拠点に広がった町なんだ。まずは砦に冒険者が集まり、その周りに売春宿が出来た。昔の戦地だとよくある風景だが、この町はそうやって出来たんだ」


それは俺も聞いたことがある。


「その始まりの砦が今の冒険者ギルドの本部だ」


「へぇ~、そうなんだ。それは面白い話だね。その話を纏めて歌でも作ろうかな。それで俺も吟遊詩人として再ブレイクだぜ!」


オアイドスが食いついたことでカンパネルラ爺さんはノリノリで話し出した。


流石はお調子者だな……。


「まあ、もっと話は巻き戻ってだ。なんで冒険の最前線地域に砦が出来たと思う? 戦争じゃあないんだぜ。冒険者の最前線とは言え、砦までは要らんだろ。魔王が居るわけでもないし、モンスターが攻めて来るわけでも無い。魔境に攻め込むのが冒険者の役目だぞ、攻め込まれて守らなければならない理由なんてありゃしないのにだ」


あー、言われてみれば、それはあるな。


俺も初めて冒険者ギルド本部を見た時は立派な砦だと思ったよな。


でも、何から何を守るんだ、この砦は?


それに砦は立派なのに防壁は丸太だ。


丸太を連ねただけの安い防壁だ。


ゴモラタウンの防壁と違って岩で作られた立派な壁じゃあない。


なのに砦だけはご立派だ。


短気なゴリが話を急かした。


「じれってえな、爺さん。はっきり言いやがれ!」


脅すように急かされたカンパネルラ爺さんが真相を語る。


「あの砦は、墓標なんだよ。デッカイ墓標なんだ」


「「「誰の?」」」


俺たち三人の声が重なった。


三人して同じ疑問を抱いたようだ。


誰の墓か?


でも、墓と地獄の番犬は繋がった。


──冥土だ。


代表して俺が具体的に訊き直す。


「誰の墓なんだよ、カンパネルラ爺さん?」


「昔の冒険者なら皆が知ってる名前だよ。今の若いもんが知ってるかどうかは知らんがな……」


「誰だよ、勿体ぶらずに早く言いやがれ」


「ハーデスだ……」


「「ハーデス?」」


ゴリとオアイドスが声を揃えた。


だが俺一人だけがキョトンとしていた。


まさか今ごろハーデスですか?


古くね?


ハーデスって冥界の王ですよ?


ゲームとかアニメで使い古してカビが生えちゃって、もう誰も触れてくれなくなった骨董品みたいなキャラですよ?


たしかゼウスの子供で三大神の一人だったよね。


アテナ、ポセイドン、ハーデス。


アテナが戦いの女神で、ポセイドンが海の支配者、そんでもってハーデスが冥界の王だっけ。


しかも神話の中で、一番出番が少ない名前ばかりのモブキャラ神様だよね。


その神様のお墓が、このソドムタウンに在るのか?


えっ?


てか、死んでるの?


ハーデスさんは御臨終?


しかも、ゴリとオアイドスの反応からして、この異世界で、ハーデスは有名な名前じゃあないぞ。


あんまり知られてないのかな?


まさにモブキャラ神だな。


てか、アテナ……。


そういえば、あの糞女神の名前もアテナだったよな……。


もしかして、今回の話で糞女神が絡んで来るのか!?


たぶん少しぐらいは絡んで来そうだな、おい!!


それだけでムカムカしてくるぜ!!



【つづく】

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