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第286話【クラウド】

シーフがダンジョンの床に這いつくばりながら耳を地面につけていた。


何かの音を聞いているのだろう。


彼女はフードとマスクで顔を隠している。


若い女性であるが、僕より歳上だ。


彼女は伏せた体勢のまま言った。


「32メートル先に20メートル四方の大部屋が在ります。室内には十一体のスケルトンが蠢いてますわ。おそらく武装量からしてスケルトンファイターかと……」


そう言うとシーフは立ち上がり、背後に居た僕たちを切れ長の瞳で見た。


どうするのか指示を扇いでいるのだろう。


僕は背後に居るパーティーのリーダーを見た。


鷹の目のような鋭い眼光を持った魔法使いが言う。


「クラウド、一人で片付けられるな?」


僕は黙って頷いた。


ウォリアーならキツイが、ファイターならば十体程度一人で行ける。


「天秤、部屋までトラップが無いか先導してやれ」


「御意……」


返事の後に天秤さんは、黙って先を進んだ。


僕は天秤さんの後ろに続く。


そして、ダンジョン内を進んでいると、天秤さんの言う通り、前方に大部屋の入り口が見えて来る。


「しっ!」


天秤さんが、マスクで隠した口元に人差し指を当てて僕を止めた。


「部屋の入り口に何らかのトラップがあるわ。部屋と通路との敷居を踏まないでね……」


「分かった……」


俺はそう答えると、腰からロングソードを引き抜いた。


そして左腕にはカイトシールドを翳して、忍び足で先に進んで行った。


ここからは一人だ……。


天秤さんに言われた通り、部屋との間の敷居を跨いで室内に入る。


僕が被っているプレートヘルムには、暗視能力があるのだ。


だから闇でも見えているから不自由は無い。


僕が部屋に入るとスケルトンファイターたちが一斉にこちらを向いた。


そして、僕を見るなり武器を翳して走り寄って来る。


戦闘開始だ。


「ファイアーウェポン!」


これもマジックアイテムの効果だ。


僕は魔法が殆ど使えない。


使えるのは日常生活用のコンビニエンス魔法が少々だ。


だが、その分だけ剣の腕が立つ。


この数ヶ月で随分と鍛え上げられたのだ。


「とや!!」


僕は次々と燃え上がる剣でスケルトンファイターを斬り裂いて行った。


くたびれた鎧ごとぶった斬る。


燃え盛りながらスケルトンファイターたちが、次々と倒れて行った。


やがて十一体すべてのスケルトンファイターを撃破した。


魔力感知スキルで周囲を見回したが魔力の反応は何もない。


まあ、こんなもんだろ。


マジックアイテムなんてなかなか手に入らないよな……。


それにしても疲れた。


息が上がってる……。


「はぁー、はぁー……」


「ご苦労──」


アマデウスさんたちが大部屋に入って来る。


「息が上がってるな」


冷たい抑揚で言われた。


「すみません……」


「もう少し体力を強化しないとならんな、キミは」


「はい……」


普通はそうだろ……。


スケルトンファイター十一体と一人で戦って倒したんだぞ。


息が上がらない戦士が居るのかよ……。


「天秤、まだモンスターは居るか?」


天秤さんは、また床に耳をつけている。


「次の部屋で最後だと思いますが、何か居ます。おそらく霊体かと……。私では判断がつきません」


「そうか」


天秤さんは立ち上がると後ろに下がった。


アマデウスさんが仲間の二人に指示する。


「バイファムを先頭にビシャスが続け。天秤とクラウドは後方を警戒だ」


「はい……」


どうやら僕の仕事は終わったらしい……。


また経験値稼ぎだったのか……。


あとは重戦士のバイファムさんと神官冒険者のビシャスさんの仕事だ。


ダンジョンの奥に潜む謎の霊体は、この二人で片付ける方針かな。


また、アマデウスさんは、魔法の一つも使わないのか……。


この一ヶ月間冒険中に、アマデウスさんが魔法を使ったところを見たことが無い。


いつも指示を飛ばしているだけだ。


この人は、どこを目指して冒険を繰り返しているのだろう?


司令官にでも成りたいのかな?


「では、行きますぞ」


「おう!」


バイファムさんとビシャスさんが先頭でパーティーが進み出した。


そして最奥だと思われる部屋に入る。


また20メートル四方の大部屋だった。


部屋の奥に何かが揺らめいていた。


レイスか?


半透明な灰色のローブが揺らめいていた。


霊体のアンデッドが一体だけ居る。


「ビシャス、頼むぜ」


「はい」


神官冒険者のビシャスさんが聖印を片手に前に出た。


祈りと共に聖印が輝き出す。


ターンアンデッドだ。


だが、次の瞬間にはビシャスさんが凍り付いていた。


全身が氷りに包まれている。


「ビシャス!!」


バイファムさんが叫んだ刹那、今度はバイファムさんが足元から燃え上がった。


甲冑ごと全身が炎に包まれる。


「ぎぃぁあああ!!!」


叫ぶバイファムさんが床を転がった。


そして直ぐに動かなくなる。


不味い!


俺は盾を構えてアマデウスさんの前に出ようとした。


しかし、それをアマデウスさんに止められる。


「下がってろ。あれはレイスじゃあない。リッチだ」


リッチ!?


アンデッドの最高峰じゃあないか!!


あんな化け物を見るのは初めてだ!!


背後から天秤さんに肩を掴まれた。


「私たちは逃げるぞ!」


「えっ、ええっ!?」


僕は天秤さんに引っ張られ部屋を出て行く。


すると室内で爆音が轟いた。


次の瞬間には部屋の中から炎が吹き出して来る。


危うく焼かれるところを壁の陰に隠れて難を逃れた。


ヤバかった……。


天秤さんが引っ張って連れ出してくれてなければ焼かれて死んでいたかも知れない。


そしてまた轟音が響いた。


ダンジョン全体が激しく揺れる。


地震!?


立ってられない。


戦っているのか!?


アマデウスさんは、リッチと戦っているのか!?


一人で!?


信じられない……。


魔法使いが一人でリッチと戦っている。


その状況が想像すらできなかった。


「どう戦ってるんだ!?」


まだ激しい爆音が轟いている。


壁や床がグラグラと揺れていた。


魔法の攻防なのだろうか?


兎に角激しい戦いだ。


しばらくすると音がやんだ。


壁に耳を当てていた天秤さんが言う。


「終わったわ……。アマデウスさまが呼んでいます」


「は、はい……」


僕と天秤さんは、二人で部屋の中に戻った。


すると煤けた室内にアマデウスさんだけが立っている。


無傷だ……。


リッチ相手に無傷……。


この人のほうが化け物なのか?


周囲を見回せばリッチの姿も、凍り付いたビシャスさんの遺体も、焼けたバイファムさんの遺体も無かった。


ただ、部屋の中は焼け焦げて荒れていた。


振り返ったアマデウスさんが言う。


「天秤、ここがダンジョンの最奥か?」


天秤さんは室内を見回している。


そして部屋の隅で何かを見つけたようだ。


「隠し扉が在ります」


「開けられるか?」


「容易く」


天秤さんは床を手で擦る。


すると音を鳴らして床が開いた。


「か、隠し扉……?」


床の扉が開くと階段が出て来る。


「天秤、この奥はどうなってる? 下にモンスターは居るか?」


天秤さんは、階段の奥を見詰めながら言う。


「下は10メートル四方の部屋で、おそらくここが最奥です。モンスターの気配はありません」


「今度こそ本当に最奥か?」


「はい……」


最奥か……。


確かに二回目だ。


そしてアマデウスさんが先頭で階段を下りて行った。


「これは……」


部屋に入るとアマデウスさんが呟いた。


その声色には驚愕の色が感じられた。


いつも沈着冷静なアマデウスさんが驚いている?


いったい部屋の中に何があるんだ?


僕も部屋の奥を除き見た。


なんだろう?


大きな荷物がある?


なんだ?


ピアノ?


グランド・ピアノ?


なんでこんなダンジョンの隠し部屋にグランド・ピアノが?


魔力感知スキルで見てみれば、グランド・ピアノが輝いて見えた。


このグランド・ピアノはマジックアイテムだ。


そのグランド・ピアノを見詰めていたアマデウスさんが呟いた。


「やっとだ……。やっと見付けたぞ……」


えっ?


歓喜している?


アマデウスさんの背中が笑っていた。


この人も笑うのか……。


「これはなんですか?」


天秤さんが訊いた。


僕も訊きたかったことだ。


このピアノはなんなんだ?


僕も天秤さんもマジックアイテムの鑑定は出来ない。


だからこのピアノがなんなのか分からない……。


重要な物なのかな?


アマデウスさんが質問に答える。


「冥界のピアノだよ」


冥界のピアノ?


それっきりアマデウスさんは黙ってしまう。


でも、こんな大きなピアノをどうやって持って帰るんだろう?


てか、どうやってこのダンジョン内に持ち込んだの?



【つづく】

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