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第280話【寄生虫ベェノム】

あー、頭がガンガンするわ~。


鼻のてっぺんが痛いしよ~。


ちっ、口の中まで血の味がしやがるわ……。


俺は床に唾を吐いた。


「ぺっ」


あー、やっぱり血が混ざってやがるな。


鼻血が喉にまで垂れてきたのかな。


さて、問題は眼前のハゲマッチョ野郎をどうするかだぜ。


胸を裂いても駄目だし、頭を串刺しにしても駄目だとは厄介だ。


無敵じゃんか。


だが、考えろ。


相手が魔法研究の賜物ならば、仕掛けが必ず存在する。


トリックやただの不思議で再生してるんじゃあないんだ。


おそらく魔法哲学に沿って回復しているんだ。


ならば死なない原理があるはずだ。


俺は、それを突けばいいんだ。


だから、考えろ。


何時も言ってるじゃあないか。


情報量が勝利の鍵だって──。


ならば、情報とは?


相手は昆虫だ。


しかも寄生虫だ。


ウイルスとかじゃあないはずだ。


ならば、ちゃんと形有る生命体のはずだ。


そいつを斬れば勝てるはず。


相手はハゲマッチョ野郎じゃあない。


寄生虫ベェノムだ。


ならば、ヤツはどこに居る?


寄生虫が肉体すべてをコントロールするのに必要なのは、やはり脳味噌だよな?


だとするならば、さっきの突きは浅かったのか?


顔面から後頭部にかけて刀身が貫いたが、脳味噌を丸々斬ってない。


もっと完全に脳を斬れば、中に潜むベェノムを斬れるはずだ。


待てよ……。


ベェノムのサイズって、どのぐらいだ?


形は?


サイズや形によって斬る範囲も異なるか?


ならば、確実なのは『焼く』だな。


焼ければかなり良しだ。


だが──。


ここでは火を使いたくない。


燃える物が多すぎる。


魔導書に家具、それに薬品。


燃える物が満載だ。


ここで火を放てば俺まで丸焦げだわな。


それに、ここにあるものすべてが貴重品だ。


マジックアイテム以外の物もすべてが魔法使いブライの研究成果だ。


それをすべて灰にするのは勿体無い。


出来るだけ回収して、ゾディアックさんのところにもって行ければ多額の利益が得られそうだからな。


やはりここで火を放つのは愚策だな。


ならば、このハゲマッチョ野郎を塔の外に連れ出さなければなるまい。


バーバラの様子を鑑みるに、虫除けの結界は、塔の周辺20メートル付近から張られている。


ならば、塔の外ぐらいにはベェノムも出れるはずだ。


大まかな作戦は、こんなもんかな。


すべては推測の内だが、これで行ってみるか。


問題は、こいつをどうやって塔の外に出すかだ。


それが骨が折れそうだな。


塔の外に出せれば、あとはマジックイレイザーで肩がつく。


あの火力ならば、全身丸ごと灰にできるだろうさ。


まずは、こいつを外に出す!


「作戦は決まりましたか?」


両腕を胸の前で組んでいたマッチョ野郎がふてぶてしく言った。


「待たせて済まないな」


「片腕の冒険者さん、私はまだこれからやるべきことが山程あるんです。あなたに構ってられないんですよ」


「やることって何だよ?」


「この森を出ることです」


あれ、こいつ馬鹿だわ。


素直に質問に答えますよ。


「森を出てどうするんだ?」


「そりゃあ決まってるじゃあないですか。人間ライフをエンジョイするんですよ。食べて寝て、働いて遊んで、抱いて抱かれて。それが人間なのでしょう」


「まあ、間違いではないな」


「そのために、まずは虫除けの結界をどうにかしないとなりません。ここの本を読み漁れば、解除方法のヒントぐらい出てくるでしょうから」


「ところでお前がベェノムだって認めるのかい?」


「そう、私は寄生虫ベェノムでした。ですが今は人間ベェノムです。もう人間なのです!」


こいつ人間人間って、やたらと人間にこだわるな?


そんなに人間に憧れてたのか?


それとも人間になれて嬉しいのか?


まあ、人間ならば、虫除けの結界なんて関係ないじゃんか。


だからお前は人間なんかじゃあないんだよ。


でも、それを指摘すると怒りそうだから黙っているかな。


更にベェノムが語る。


「私がこの森から出れたら、私の生殖器から子種を人間の雌に植え付けて、繁殖するのです。そして眷族を増やしてハーレムを築くんですよ!!」


あー、駄目だ、こいつ……。


絶対外に出したらアカンタイプのキャラだわ……。


「どうですか、あなたの腕を復活させますから、私に協力してくれませんか?」


「えっ、マジで?」


腕を回復させて貰えるならばいいかも……。


そうすれば糞女神に頼らなくったってもいいからな。


「人間のアドバイスがあったほうが、ハーレム建造に役に立ちますからね」


そっちかよ……。


あー、意地でもハーレムを作りたいんだ。


なんだろう、ムカつくな。


俺がハーレムを作れないのにハーレムを夢見るヤツって、それだけでムカつくわ……。


殺す……。


ぜってーに、殺す……。


こいつだけは殺そう……。


「わかったぜ」


俺は剣を鞘に戻した。


一度戦意を伏せる。


そしてゆっくりと歩み寄った。


「でぇ、どうやったら腕を回復できるんだい?」


マッチョ野郎は笑顔で言った。


こいつからも戦意が消えていた。


俺に騙されていやがる。


「簡単さ。私の眷族をキミに移植するんだ。彼がキミの脳まで達して洗脳してしまえば腕の一本や二本ぐらい簡単に再生できるはずだよ」


馬鹿か!


駄目じゃん!


「斬っ!」


間合いを詰めていた俺は、瞬速の居合い抜きで黄金剣を抜いた。


腰を落とし放たれる一撃が瞬間の内にマッチョ野郎の首を跳ね落とした。


「えっ!?」


「驚いても遅いぜ!!」


ハゲた首が床に落ちると全裸が膝から崩れる。


そして俺は、ベェノムの生首を扉の外までキックのドリブルで運ぶとテラスから塔の外に蹴り飛ばした。


「ファイアーボール!」


落下して行くハゲ頭がファイアーボールで炸裂する。


爆炎と共に木っ端微塵となった。


「よし、これで一件落着だ~」



【つづく】



あれ、レベルアップしなかったな?


ドンッ!!


「えっ!?」


突如、背中から突き飛ばされた。


衝撃に押されて俺の体が前に飛ぶ。


ヤバイ、テラスから落ちる!?


俺は、体を翻すとテラスから飛び出た自分の体を引き戻そうと右手を伸ばした。


しかし、その手はテラスから程遠い。


落下する……。


その視界に映ったのは、首の無いマッチョ野郎のボディーだった。



【真つづく】

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