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第174【スカル姉さんのパンチ】

俺が放火魔バイマンを連れて、スカル姉さんのところに帰ったのは昼過ぎだった。


腹が減ったので道中の露店で焼豚を買って帰る。


これとパンのあまりで昼食にしようと思うのだ。


「スカル姉さん、ただいま~。焼豚を買ってきたぞ~」


俺が空き地に向かって声を張ると、スカル姉さんがノソノソとボロテントから出て来る。


相変わらすスカル姉さんは、死んだ目でやる気が無いな。


俺は火の消えた焚き火の前にバイマンを座らせると狼たちに見張りをさせた。


それから俺は焼豚を皿に盛り付けるとスカル姉さんに差し出す。


「食うだろ?」


「ああ……」


スカル姉さんはやる気無く焼豚を盛り付けた皿を受け取ると、無言のままムシャムシャと食べ始める。


それを見て俺も焼豚を食べ始めた。


すると縛られたままのバイマンが訊いて来る。


「あの~、私の分の昼食は……?」


「はいはい」


俺は焼豚の破片をバイマンに向かって放り投げた。


しかし狼の一匹が焼豚に飛び付いて食べてしまう。


「わ、私の焼豚が……」


「残念だったな~」


俺は残念がるバイマンを無視して昼食を食べた。


そんなこんなしていると、食べるのを中断したスカル姉さんが質問して来る。


「この痩せたヤツは、誰だ?」


俺は豚肉を頬張りながら答えた。


「放火犯のカイマンだ」


「バイマンです……」


「へぇ~、そうなんだ……。殴っていいか?」


「ひぃ!!」


バイマンが露骨に怯える。


「構わんぞ」


「じゃあ、昼食を食べ終わってからな」


「食ってからかい……」


スカル姉さんはパンと焼豚を食べ終わると大の字に寝転んだ。


丁度ながら頭の側に居た狼の一匹が枕になる。


狼の枕か──。


なんか、あれ良さそうだな。


俺も真似しようかな。


俺は狼を一匹引き寄せた。


「よし、動くなよ~」


「ガルル……」


俺は言ってから寝転んだ。


しかし、狼は逃げやがる。


俺は地面にゴチンと後頭部をぶつけてしまった。


畜生が!


「痛い……。なんで避けるん、アーノルドさん……」


「がるぅ」


俺の問い掛けを無視するように、狼はそっぽを向いた。


こんにゃろう、生意気である。


「まあ、いいや。ところでスカル姉さん、こいつをぶん殴るんじゃあなかったのか?」


「お腹が一杯だから、昼寝のあとにな……」


「呑気だね~。じゃあバイマン、尋問の続きでもしようか」


「えっ、は、はい……」


「でえ、さっき言ってた放火は四件だけって、どう言うことだ?」


「どう言うこともこう言うこともないですよ。私が放火したのは無人の家だけです」


「無人の家だけ?」


「無人の廃墟か、無人の空き家だけですよ……」


「なんで?」


「なんでって、人を殺す気が無かったからです……」


「火は放つが、人殺しはしたくないと?」


「そんな感じです……」


俺たちが話していると、スカル姉さんがムクリと上半身だけを起こした。


「じゃあ、私の診療所に火を付けたのは貴方じゃあないのね……?」


「は、はい……。診療所に火なんてつけませんよ……」


スカル姉さんはボソリと呟いた。


「やっぱり……」


俺はスカル姉さんを問い詰める。


「やっぱりって、なんだよ?」


「なんかさ~、あんたがゴモラタウンから帰って来てから、冷静に考えたんだよね……」


「うむうむ、それから?」


「なんかあの日にさ、診療所で吸ってたタバコをちゃんと消してなかったような気がするんだよね……。それに引火しやすい薬品も買って近くに置いといたしさ……」


バイマンが言った。


「でしょう、それが火災の原因じゃあないんですか?」


「あんた、放火魔だけど嘘つきじゃあないのね」


「は、はい……」


そこで俺が話に割り込んだ。


「でもさ、無人でも有人でも、放火は放火だ。このまま番屋に付き出すぞ」


「覚悟はできていました。むしろ私を止めてくれて感謝します。このまま私が放置されていたら、きっといつかは死人が出ていたかも知れませんから……」


「なんで、真面目に冒険者をやってられなかったんだ。三種類も魔法に手を出さなければ、冒険者を続ける体力は、十分にあったんだろ?」


「すべてはアマデウスさんの指示でした……」


「アマデウス……」


俺は痩せててのっぽの魔法使いを思い出した。


冒険者ギルドの覇権を狙っている野郎だ。


「私はアタッカー魔法とシャーマン魔法の使い手でしたが、ここにサーバント魔法を追加できたら最強が狙えるって唆されたんですよ」


「あんたは、それを真に受けたと?」


「酒の勢いもあってか、私は魔法の羊皮紙を読み上げてしまいました……」


「それで、体力を食われたか」


「はい、ガッツリと魔力に体力を食われました……。やはり三種類の魔法なんて無理なんですよ。それで旅をする体力を失い、一時間も歩き回れないほどに体力を失いました」


それじゃあ冒険は無理だな。


引退するしか無いか。


「それで冒険者引退か~」


「引退後は悲惨でした。冒険一筋でしたからね、なんの一般スキルも私には無いんです。体力も無いから力仕事もできません……」


「それで、自棄になって放火かよ」


「は、はい……」


スカル姉さんが急に立ち上がった。


俺とバイマンが、どうしたのかと黙ってスカル姉さんを見上げていると、スカル姉さんがバイマンの側に歩み寄る。


「やっぱり、あんたを殴り飛ばすわ」


「「ええっ!?」」


俺たちが驚いていると、スカル姉さんは拳を振りかぶる。


「行くよ~」


「なんで!!」


「おっぅぅうららああ!!!」


「っっ!!!」


斜め上から繰り出されたパンチが座るバイマンの顔をぶん殴った。


「らああ!!」


女性のパンチとは思えないほどの勢いで、拳が唸って振りきられた。


殴られたバイマンは頭を地面に叩き付けられ下半身が浮き上がる。


「ゴっパッ!」


バイマンは、勢いのままにシャチホコを真似て海老反っていた。


「わお、ナイスパンチ……」


海老反っていたバイマンの姿勢が崩れると、白目を剥いて気絶してしまう。


倒れたバイマンは、ヒクヒクと痙攣してやがる。


本当に面白いヤツだな。こいつはさ。


「ふぅ~~」


スカル姉さんが溜め息を吐いた。


その表情からネガティブな影が消えている。


「気が済んだかい、スカル姉さん?」


「うん、スッキリした」


「じゃあ、次に進めるかい?」


「ああ、もう立ち直ったぞ」


うし、良かった。


結果オーライだな。


「でえ、この放火魔はどうするんだ、アスラン?」


「どうしようか。番屋に付き出したら死刑だよね?」


「放火は重罪だからな。まず、死刑は間違いないだろうさ」


「それはちょっと可哀想だな……」


「情を掛けるなら、どうする気だ?」


「反省するなら、俺は助けてやりたい」


「見た感じだと、反省はしているようだったが……」


「でも、罰は必要だわな」


「お前が罰を下してから、逃がすのか?」


「逃がさない」


「逃がさないのか?」


「こいつには、新しい仕事を与えたいんだ。それが一生涯の罰としたい」


スカル姉さんは首を傾げた。


「意味が分からんな?」


俺はスカル姉さんに二人が一ヶ月ぐらい暮らせる程度の金を渡す。


「なんだ、これは?」


「少しの間でいいから、こいつの面倒を見ていてくれないか?」


「お前は、どこかに行くのか?」


俺は自分のテントの中に潜ると、転送絨毯の一枚を広げた。


それからスカル姉さんに答えた。


「ちょっと旅に出て来るわ」


「どこに?」


「それもこれから決める。まずは冒険者ギルドでギルマスに話して来る」


「お前、何か企んでるな」


「ごめいと~~う」


俺はニンマリと微笑むと空き地を出て行く。


そして、もう一つスカル姉さんに頼んだ。


「狼たちにも餌をやってくれ~」


「はいはい、分かったぞ」


俺は手を大きく振りながら空き地を去った。


狼たちも大人しくお座りしながら俺を見送ってくれた。



【つづく】

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