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第170話【五つの勢力】

俺が魔法使いギルドに到着したころには、魔法使いギルドの門は閉められていた。


扉が施錠されて中には入れない。


冒険者ギルドと違って24時間の営業体制じゃあないようだ。


魔法使いって、サラリーマンなのかよ。


定時上がりなんかしてんじゃあねえよ。


残業に励みやがれってんだ。


まあ、仕方がない。


ゾディアックさんと話すのは明日にしよう。


俺は町の市場でパンと生の鶏肉を買って帰った。


流石はピンク街の市場だぜ。


日が落ちてもやってる露店は幾らでもある。


まあ、兎に角だ。


材料があればスカル姉さんが夕飯を作ってくれるだろう。


俺は買い物袋をグルングルンと振り回しながらスカル姉さんの診療所跡地に帰った。


俺が空き地に入ると、焚き火を囲む影が二つあった。


一つはスカル姉さんで、もう一つはゾディアックさんだった。


なんだよ、探さなくても良かったじゃあねえか。


そして、ゾディアックさんは焚き火に鍋を掛けて何か料理を作っていた。


「ゾディアックさん、何してるんですか?」


「やあ、アスランくん。お帰りなさい」


俺も二人が囲む焚き火に当たるように腰かけた。


「いやね、ドクトルに夕飯を食べさせようと思って、材料を買ってきたんだが……」


「スカル姉さんに、作る気力すら無いと?」


「ああ……」


「でえ、代わりに作り出したってわけだ」


「そうなるね」


うむ、たすかったぜ。


危うく俺が、こうなるところだったかも知れん……。


「ところで放火魔は捕まえたかい?」


「そんな簡単には捕まえられるわけがないだろう」


「そうかい」


俺は二人に混ざって焚き火に当たる。


「鍋を作ってくれてたの?」


「ああ、ドクトルはやる気が無くて、食事すら作らないからね」


俺がスカル姉さんを見ると、死んだ目で焚き火の炎を眺めていた。


こりゃあ駄目だわ……。


俺は買ってきた食材をゾディアックさんに渡す。


「これ、パンと生の鶏肉だから」


「分かったよ。鶏肉は鍋に入れて煮込んでしまおう」


ゾディアックさんは俺から受け取った食材を、ドボドボと鍋の中にほうり入れる。


「これだけあれば、今日の晩飯と明日の朝飯は、軽く足りるでしょう」


「サンキュー、ゾディアックさん」


料理を作るゾディアックさんに、俺がお礼を述べたが、スカル姉さんはボーっとしたまま何も口に出さない。


うわー、マジで死んでますわ。


そんなスカル姉さんの様子を余所に、俺はゾディアックさんに今日のことを訊く。


「ゾディアックさん、マジックインフェルノって魔法を知ってるかい?」


「ああ、知っているとも。確かシャーマン系の上位魔法の一つだね」


「この町で使える者は何人ぐらい居る?」


「少ないと思うよ。何せシャーマン魔法はアタッカー系魔法より人気が無いからね。おもにエルフが使う魔法だしさ」


エルフが火付けってことはなかろう。


てか、まだこの異世界に来て、エルフって見たことないな。


エルフって、レアなのかな?


「じゃあ、マジックインフェルノを使える人間のリストは作れるか?」


「それはちょっと無理だね。魔法使いギルドだけで、何人もいるだろうし。冒険者ギルドの中にもたくさん居そうだからな」


「じゃあ、修道僧の中では?」


「修道僧ってことは、神殿のメンバーってことかい?」


「神殿のメンバーって、どういう意味ですか?」


「このソドムタウンには、大きく分けて五つの派閥が存在しているんだ」


「五つの派閥?」


「まずは、キミが所属している冒険者ギルド。次に僕が所属している魔法使いギルド。更に貿易を行っている商人ギルド。売春業や裏の仕事を仕切っている盗賊ギルド。それと神を崇める神殿だ」


「なるほど。そんなに派閥が有るなんて、知らんかったわ」


「まあ、キミが訊いている修道僧ってのは、その神殿のメンバーを指しているのかね?」


「分からん。ただ、さっきさ、付け火をしようとしていた怪しいヤツと出合ったんだがね。そいつが修道僧の格好をしていやがったんだ。逃げられたけどさ」


「それなら神殿に直接訊いたほうが早くないか?」


「そうだな」


「まあ、僧侶の中にもシャーマン魔法を得意とするメンバーもいるだろう。ただ、無所属の僧侶で、この町で冒険者をしているのならば、冒険者ギルドの管轄になるだろうけれどね」


「そうなると、一つの魔法から犯人を絞り出すのは難しいってことか……」


「うん、難しいだろうね」


やはり上位魔法だとはいえ、一つの魔法だけじゃあ犯人を絞りきれないか。


俺は大の字になって地べたに寝そべった。


夜の空を眺める。


「やっぱり、まずは基本的に、足を使っての情報収集なのかな~……」


本当に地味だな~……。


今日の半日やってみて、俺の柄じゃあないのも分かったしさ。


一人で刑事みたいな地味な捜査はやっぱり無理だよ。


だって俺さ、警察官じゃあないしさ。


警察官……。


警察……。


いや、まてよ!


放火魔が残したローブが有るんだから、臭いで辿れないか?


臭いを辿らせるなら警察犬だろ。


そう、警察犬だよ。


警察犬の代わりは、盾の中のシルバーウルフにやらせられないだろうか?


犬も狼も一緒だろ。


案外と名案じゃあねえ?


明日になったら試してみようかな。


まあ、放火魔も、俺とバッタリ出くわしたんだ。


しばらくは大人しくしているだろう。


その間は、幾ら見回りを繰り返しても現行犯は無いだろうさ。


そうなれば、試しは試しだ。


狼作戦を試しちゃうぞ。


あれ、警察犬作戦かな?


いや、警察狼作戦かな?


まあ、なんでもいいや。


「はぁ~い、アスランくん。鍋が煮えたよ~」


「おお、待ってました!」


俺は器に盛られた鶏肉鍋を頬張った。


鶏から良いダシが出てやがる。


気力の無いスカル姉さんも、トボトボだが鍋を食べていた。


よし、明日が勝負だ。


とっとと放火魔を捕まえて、スカル姉さんにはやる気を取り戻してもらわないとな。


そんでもって本拠地を築きあげなければ、冒険にすら出れないぞ。



【つづく】

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