第167話【常識】
名前がエスキモーだと?
なんとも舐めた名前だな。
だが、顔は可愛い……。
スタイルもグッドです……。
金髪ロングで、クビレと臍が見える白いタンクトップにアメリカンなホットパンツだ。
さらに革製のロングブーツは女性用でヒールが高い。
これで恋人募集中の健全な男子だと言うのだから、まさに犯罪レベルのビューティフルなルックスである。
おチンチンが生えてなければ、呪いの存在を忘れて、完全に口説いていたわ。
なんといいますか、俺のストライクゾーンのド真ん中を、針の糸を通すかのように貫いてますわ。
悔しい……。
こいつが男なのが悔しいぜ!!
まあ、いつまでも悔しんでいても仕方がないか。
外見は美女寄りでも、中身は完璧におチンチンランドの従業員なぐらいに同性なんだからな。
それが変わらない以上は、俺が何をしても現実は動かないか。
うし、心を入れ替えて、放火犯を探そう。
それがこの悲しみを乗り越えるためにも良かろうて。
まずは情報収集だ。
てか、それより挨拶からかな。
俺は礼儀を正して挨拶をした。
「どうも、ソロ冒険者のアスランです」
続いてカルフォルニア系美男子も挨拶を返す。
「僕は魔法使いギルド火消し班責任者のエスキモーです。よろしく」
エスキモーはキラリと微笑んだ。
うは、輝く歯が眩しいぜ!!
南国の海岸を照らす太陽のように眩しいじゃあねえか!!
うわーー、一々俺のホルモンを擽るヤツだな!!
なんだか逆にイラついてきたぞ!!
乙女チックな美男子は、これだから嫌いだぜ!!
「ど、どうかしましたか? 何やらイラついて居るようですが……」
「い、いや、すまぬ。昼飯が油っぽかっただけだ……」
「はぁ……?」
やばいな。
不審がられているぞ。
俺は不審者のことを訊きに来たのに、俺が不審がられてどうするんだ。
「ああ、すまないが、訊きたいことがあるんだ」
「なんでしょうか?」
「放火の話なんだが、ここ最近火災があった家を知りたいんだが」
「えー、確か……。あー、憶えてないてすね」
「何か記載した書類とか無いのか?」
「無いですね~」
「なんで……?」
「なんでと言われましても?」
エスキモーは金髪ロン毛を揺らしながら小首を傾げた。
俺がゾディアックさんのほうを見たが、彼も首を傾げている。
あれれれ~?
もしかして??
俺は二人の魔法使いに訊いた。
「誰が、可笑しなことを言ってますか?」
すると二人の魔法使いは、揃って俺を指差した。
「もしかして、この世界には、起きた事件を記載しておく習慣が無いのか?」
「何故にそんなことをしなければならないのかね?」
ゾディアックさんが言うと、エスキモーも頷いていた。
流石は旧世界並みの文化レベルだぜ!
書類を作るって作業は伝言の意味合いだけで、保管の義務はないと言うのか!?
そもそも書類を保管するっていう文化を持っていないのね!
俺が住んでいた現代の常識が、こうもあっさりと通じない異世界ってのも凄いな!
「これだから放火犯も捕まらないわけだ……」
ゾディアックさんが腕を組みながら言う。
「何かアスランくんは、勘違いをしてないか?」
「何を?」
今度は俺が小首を傾げた。
ゾディアックさんが持論を呈する。
「我々魔法使いギルドには逮捕権も捜査権もないんだ。それどころか火災の原因を調べる義務もない。我々は町に火の手が上がったら、被害を広げないように消火するのみだ。そもそもの役目が違う」
エスキモーが続く。
「我々は一回火を消してなんぼの報酬です。それをソドムタウンの君主から貰うだけですからね~」
「なるほどな」
調査の権限は、すべて番兵側なのね。
エスキモーが更に述べる。
「まあ、僕がここ最近で消火作業に関わったのは、七件中五件ですが、それで良ければお教えしますけれど?」
「是非とも頼む。できたら残り二件の場所も知りたいのだが?」
「聞いた話で良ければ」
「それで構わないよ」
エスキモーが満面の笑みで手の平を俺に差し出した。
この美男子野郎が、俺から小銭を稼ぎたいようだな。
よし、くれてやろう!!
俺はエスキモーの手の平に自分の手の平を重ねてコインを召喚した。
チャリチャリン~と、数枚のお金が落ちて来る。
それを見てエスキモーは満足げに微笑むと、ホットパンツのポケットから羊皮紙の切れ端を取り出した。
「もう、七件全部をメモしてありますよ」
そう言いエスキモーは羊皮紙の切れ端をヒラヒラと振った。
この糞美男子野郎がっ!!!
あー、もー、この小悪魔と結婚したいわ!!!
【つづく】