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第162話【幾つかの別れ】

俺がパーカーさんたちと、朝食を取っているとスパイダーさんが出勤して来た。


まだスパイダーさんも朝食を取って無いと言いだして、一緒に朝食を取る。


俺たち五人は、いつもながらのように詰所の厨房で朝食を食べた。


俺、パーカーさん、ピーターさん、スパイダーさん、ポラリスの五名でだ。


あれ、一人多いな……。


「なんでお前が居るん?」


俺がポラリスに問う。


「えっ、駄目だったかの?」


ポラリスはバックパックを持って来ていた。


こいつは俺に付いて来る気だろう。


「お前、俺に付いて来るのか?」


俺は怪訝そうに訊いた。


するとポラリスはさぞあたり前のように答える。


「えっ、駄目なのか?」


「駄目とか駄目じゃないとかじゃあねえよ。ベルセルクの坊ややベオウルフの髭オヤジはOKしてるのか?」


勿論ながら、あいつらがOKしていても俺は連れていきはしないがな。


「勿論してないぞ」


「じゃあ駄目じゃんか」


「関係無い。わたくしはわたくしの道を進むのみですわ」


ボラリスは凛と答えた。


「ご立派だな。でも、城の外はいろいろ厳しいぞ。お金の力だけじゃあどうにもならないことだってわんさかあるんだ。お前じゃあ生きていけねーよ」


「そこは夫であるアスランがカバーしてくれるから、安心しておるぞ」


「はぁ~……」


俺は俯いて溜め息を吐いた。


駄目だこりゃあ。


こいつはさっさと巻いて逃げるしか無いかな。


まあ、予想は出来ていたから準備も作戦も出来ている。


それを実行するのみだ。


それよりも城のほうが騒がしいな。


早速ベルセルクの爺さんが死んだことになったらしい。


早朝からそれで城内はバタバタしているようだ。


俺はポラリスに訊く。


「お前はベルセルク爺さんの葬式に出なくていいのか?」


「本当に死んだわけではないからのぉ。まあ、いいじゃろ」


「そうかい、そうかい……」


俺は何気無く席を立つと食堂を出ようとする。


「アスラン、何処に行くのだ?」


(かわや)だ~」


廁は詰所の奥に在る。


そこに俺が作った幻影が歩いて行った。


昨日の晩に覚えたばかりのイリュージョンデコイの魔法だ。


まんまと騙されたポラリスは、デコイを逃がすまいと視線で追っている。


俺自身は、その隙に詰所から出て城をあとにした。


すべての荷物は異次元宝物庫に入れて置いたから、手ぶらでも問題無い。


まあ、パーカーさんとピーターさんには、ポラリスが顔を出す前に、別れの挨拶を済ませて置いたからいいだろう。


それにあの二人は大人だ。


察してもくれるだろうさ。


スパイダーさんとポラリスには、別れの挨拶ができなかったが、また会える機会も有るだろう。


次にゴモラタウンへ来る機会があったら、改めて挨拶をすればいいや。


これが永遠の別れでもなかろう。


俺はポラリスが追って来る前に、そそくさと城を出た。


最初のゲートを潜って町に入ってしまえば、もうポラリスに見つかることはないだろうさ。


まず俺は、ゴモラタウンを離れる前に、グレイスママの店を目指した。


あの婆さんにも挨拶をしておこう。


もしかしたら今後世話になるかも知れない。


俺は裏路地を抜けてグレイスの店に入った。


「ちゅわーす、皆の憧れアスランくんの来店ですよ~」


「あらあら、元気なクソガキが来店してきたよ。今日はお客さんかい、冷やかしかい?」


「冷やかしかな~」


「帰れよ」


「そんなこと言うなよ、婆さん」


「婆さんだって?」


あっ、怒ったな。


「幻影の中で百回ぐらい死にますか?」


「ごめんなさい。調子に乗りすぎました……」


「分かればよろしい」


グレイスママはカウンターの中で優雅なソファーに座りながら寛いで居た。


チャイナドレスから覗く露な肌が艶やかだった。


本当にババアとは思えなぁあつっがあがあがだだだただっ!!!!


やーべー、少し嫌らしいことを考えてしまったぞ!!


落ち着け、落ち着け!!


相手はセクシーナイスボディーでもババアだ!!


惑わされるな、俺!!


ぜぇはー、ぜぇはー……。


よし、落ち着いたぞ……。


まったく難儀な身体だぜ……。


「でぇ~、何しに来たんだ、アスラン?」


「ああ、これを見てもらえないか」


俺は異次元宝物庫からセルバンテスが着ていたミニスカチャイナドレスを出すと、カウンターの上に広げた。


「これは……」


グレイスママの声色が変わった。


表情も真剣になる。


「閉鎖ダンジョン内に居た、セルバンテスって言うアンデッドが着ていたマジックアイテムだ」


「これを私にどうしろと……」


「ここ最近で、チャイナドレスを着込んでいるのはあんたしか見たことが無い。それどころか、町でチャイナドレスを売ってる店すら見たことが無いんだ」


「何が言いたいのだ……?」


「このチャイナドレスとあんたが、何か関係してないかなってね。そう思ったんだ」


「そうか……」


グレイスママはミニスカチャイナドレスを手に取るとマジマジと眺めた。


目元が悲しそうである。


「セルバンテスって冒険者は、昔の知り合いでな……」


「やっぱり、そうか」


「セルバンテスは、私がまだ若いころ、閉鎖ダンジョンに挑んで帰って来なかった冒険者だ。帰ってきたら結婚するはずだったのだがな……」


うわ、露骨な死亡フラグをおっ立てたまま試練に挑んだのね。


そりゃあ、死んでも文句は言えないぜ、セルバンテスの旦那……。


「私も若くてセルバンテスにぞっこんだったからの。お揃いのチャイナドレスを着ていたんだ……」


おいおい、それは拷問的なペアルックだな。


そもそも、そんなペアルックを承諾するセルバンテスも凄い精神力をしてやがるぞ。


もしかして変態か?


てか、あの成りを見たら変態だよな。


「まあ、昔の話だ……。そのあとに幻影で騙しながら今の夫に出会い、歳を偽って結婚して、高齢出産だったがワイズマンも儲けた」


なんか聞いてて激動を感じるのは俺だけだろうか?


この婆さんは、かなりの詐欺師だぞ。


そもそもセルバンテスって二百年前の冒険者だったよね?


じゃあ、この婆さんは幾つなんだよ。


「分かったわ。このドレスを言い値で買い取ろう」


「証拠隠滅か?」


「なんとでも言え……」


「じゃあ、くれてやる」


「何故だ?」


「あんたには、お金で解決するよりも、恩を売っといたほうが、後々良かろうて」


「小僧、若いのに悪よのぉ~」


俺はグレイスママの表情が明るくなったのを確認すると、踵を返した。


なんか安堵する。


「あっ、そうだ」


「んん?」


「この壺をこの店に置いていくからさ、好きにしてくれ」


俺は異次元宝物庫からセルバンテスの骨粉が入った壺を取り出すと、カウンターの植えに置いた。


その壺の蓋を開けてグレイスママが中を覗き込む。


「なんだ、これは?」


「セルバンテスだよ」


「…………」


またグレイスママの顔色が暗くなった。


しゃあないよね……。


まあ、最後ぐらいは俺が明るく振る舞うか。


「じゃあ、また来るかもな~」


そう言い残すと俺は手を振りながら小さな店を後にする。


そしてそのまま防壁のガートを目指した。


俺は人混みを進みながら呟く。


「なんか適当なマジックアイテムと交換でも良かったかな……」


少し勿体なかったと後悔した……。



【つづく】

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