第105話【全裸のおっさんたち】
「わ、ワシは一体何を……?」
「ここはどこだ……?」
「俺は何をしてたんだ……?」
「あれれ……?」
猫たちが突然ながら人に変わった。
魔女キルケの呪いが解けたのだろう。
十匹ぐらい居た猫が、全匹すべて全裸のおっさんに変わっだのだ。
見ているこっちも驚いてしまう。
一人ぐらい可愛らしい乙女が居てもいいじゃあないかとも考えた。
なんとも読者サービスがなっていないと思う。
「はぁ! 何故にワシは全裸なのじゃあ!!」
「さ、寒い!?」
なんだろう?
このおっさんたちは記憶が無いのかな?
「ほれ、とりあえずそこに燃えている家が在るから暖まったらいいんじゃあないか」
「おお、これはありがたや!」
「温まろうや!」
「あったか~~い」
おっさんたちは火に当たり、体が暖まったせいか、どうやら徐々に落ち付きを取り戻していった。
おっさんたちの人数を数えたら、全部で十一人居た。
中には若い兄ちゃんも三人ほど混ざっている。
おそらくこの内の一人がマヌカビーだろう。
それは徐々に探って行こうと思う。
もうドデカイババァ~は死んだのだ、焦ることも無い。
「じゃあ、あんたらは自分が猫になってたことは覚えてないのかな?」
「俺たちが猫に……?」
おっさんたちは顔を合わせた後に考え込む。
「そ~か~、猫か~」
「確かに猫をやってたような気がするな~」
どうやらぼんやりと自覚は有るようだな。
「じゃあ、あんたらはここでドデカイババァ~にお茶を注がれて猫になったぐらいは覚えているんだな」
「ああ、俺は覚えているよ。確かに婆さんとお茶を飲んだぜ」
一番若い兄ちゃんが言った。
こいつかな、マヌカビーは?
「あんたの名前はマヌカビーか?」
「いや、違うが」
あれ、違った……。
「僕が、マヌカビーですが?」
あ、こっちの兄ちゃんのほうかよ!?
背の高い筋肉質な兄ちゃんだった。
あそこもご立派だ……。
「あんた、ソドムタウンでマヌカハニーの姉ちゃんが待ってるぜ。俺はあんたの姉ちゃんに雇われて、あんたを探しに来たんだ」
「そ、そうだったのか!?」
背の高いマッチョなマヌカビーだったが、気は優しげである。
あそこは暴れん坊サイズだが……。
「じゃあ、帰ろうか」
「あの~、良かったら服を別けて貰えないか?」
俺は即答した。
「ない!」
「やっぱり……」
異次元宝物庫に着替えが一着あるが、ここでは出せない。
見ている人が多すぎる。
それに異次元宝物庫の存在がバレてしまうじゃあないか。
どうせ一着しか無いのだ、全員には渡らないから我慢して貰おう。
マヌカビーが訊いて来る。
「出口は分かるのかい。僕は迷ってから出入り口が分からなくなって、ここに行き着いたんだが……」
「ああ、安心しろ。目印は付けてきたからな」
「やるね、キミ」
お前さんとは違うのだよ。
入って来た出入り口を見失い、あんな怪しいドデカイババァ~に騙されて猫に変えられるほど馬鹿では無いのだ。
くっくくく、っと心中で無意味に笑っていた。
俺は火に当たるおっさんどもに話し掛ける。
「おっさんたちよ、俺はこの兄ちゃんを連れてソドムタウンに帰るけれど、あんたらはどうする?」
「すまない、外まで連れてってくれないか?」
「それは構わんが、服はやらないぞ。これ一着しか無いんだから」
「ああ、分かったよ。とりあえず俺たちをソドムタウンまで連れてってくれないか。御礼はソドムタウンで払うから」
「御礼なんて、要らないよ」
「いやいや、待ってくれないか。俺はゴモラタウンの商人なんだ。俺はゴモラタウンまで頼むよ!?」
あー、それぞれ出身が違うらしいな。
「すまないが俺はソドムタウンの人間なんだ。ソドムタウンまでは連れて行けるが、それ以上は無理だから」
「そ、そうなのか……。仕方ない。とりあえずソドムタウンまで一緒に行くよ。そこから続きを考えるわ……」
「悪いな、おっさん」
話は纏まった。
とりあえずこのままソドムタウンに帰ることとなる。
俺は全裸のおっさんを連ねて出口を目指す。
メルヘン溢れるお花畑を進んだ。
やがて目印のロングソードが見えて来る。
お花畑のド真ん中に刺さるロングソードを引き抜くと、俺は眼前の空間を探るように突き刺した。
ロングソードの刀身が空中で消える。
「ここが出口だ」
「おお、凄いね。僕は帰れるのか!」
「「「おおおおおっ!!」」」
おっさんたちから歓声が上がった。
俺はその歓声に押されながら見えない扉を潜った。
そして、湿っぽいダンジョンの一室に移動する。
俺を追って次々に全裸のおっさんたちが出口を潜ってこちら側にやって来る。
俺はこの全裸の十一人を連れてソドムタウンに帰ることとなる。
俺は二日間もの間、全裸のおっさんたちと旅をした。
しかし、おっさんたちは逞しいものであった。
その辺の草や葉っぱを使って服を作り出す。
巧みなサバイバル術で水を集めたり、木の棒を槍に変えて獣を狩り出した。
それで生活をまかない始める。
案外と泣き言を垂れないで、帰宅の準備を無から作り出して行くのだ。
「すげーなー、おっさんたち」
「ああ、こう見えても冒険者だからな」
「奇遇だね、俺もだよ」
話を聞けば、十一人中、六人が冒険者で、三人が旅商人。二人が農夫だった。
そして、あの場所からお花畑に迷い込んだのはマヌカビーを含めた冒険者三名だけだった。
他の八人は別の場所からお花畑に迷い込んだと述べている。
あれと同じような出入り口が他にも在るようだ。
そして二日後に俺はソドムタウンに到着する。
ここで原始人ルックのおっさんたちと別れた。
俺とマヌカビーは冒険者ギルドに向かう。
行き場所が無い冒険者のおっさんたち五名も俺たちに続く。
マヌカビーはギルドの宿屋に宿泊していた姉のマヌカハニーと感動の再会を果たした。
「ハニー姉さん……」
「ビー!?」
姉弟は再開と同時に、姉が弟を往復ビンタした。
パアパパパパーーン!っと派手な音を奏でたが、次ぎには姉が弟に泣きながら抱き付く。
感動のワンシーンである。
けっ、俺の柄じゃあないぜ!
ぐすん……。
すると俺たちを出迎えてくれたギルガメッシュと、おっさんの一人が急に歓喜の声を上げた。
「お前は、ギルガメッシュか!?」
「そう言うお前はサンジェルマンか!?」
二人のおっさんが抱き合った。
キモイ……。
気を取り直して俺が問う。
「どういうことだ、ギルマス?」
「こいつは俺がまだ若いころに死んだ、冒険者仲間だ!」
「何を言ってやがるギルガメッシュ。俺は生きてるぜ!」
ギルガメッシュは事情が分かっていないから、このおっさんが死んだものだと思い込んでいたんだな。
ギルガメッシュが歓喜の声でサンジェルマンに話し掛けた。
「お前は今まで何をしてたんだ?」
「ああ、お前と別れた後に山脈に入ってな、そこで遭難してたのをこの若造に助けられたってわけよ」
「遭難?」
「お前と別れた後にな」
「別れた後に?」
「ああ」
「二十年間もか?」
「二十年?」
おっと話が合わなくなり始めたぞ。
「お前は二十年間も遭難してたのか?」
「二十年も!?」
あー、おっさんが慌て始めたわ。
たぶんさ、このおっさんは、あのドデカイ魔女の元で二十年間も猫をやってたんだろうな。
哀れだわ……。
まあ、そんな感じのことを俺が二人に説明してやる。
時が経っているのだよ、と。
「なるほど、俺は二十年間も猫をやってたのか……」
ギルガメッシュが言う。
「それじゃあ、ニャンジェルマンじゃあないか?」
「それ、いいな」
案外とサンジェルマンも納得していた。
こうしてマヌカハニーが持って来た冒険は終了する。
結局のところマヌカビーは姉の反対を押しきり冒険者を続けることにしたらしい。
しかも、あそこから帰って来たおっさん冒険者たちと組んでだ。
最近では『ニャンズパーティーズ』とか可愛らしく名乗っていやがる。
六名がおっさんや兄ちゃんなのにさ。
やっぱり冒険者って生き物は、呑気な生き物なのだろう。
【つづく】