プロローグ 夢か過去か
これは恐らく、遠い気過去の記憶。
あの時は確か、
「おねえちゃん、って人間じゃないの?」
と、たずねた。
すると女性は応えた。
「はい、UNI-00。アンドロイドです。マスターからはユノと呼ばれています。」
無機質
そう、ひどく無機質に見えた。
漆黒の長い髪に白い肌。
僕の中を見通せるかのような、澄んだ蒼い瞳。
童話に出てくる糸繰り人形のような、そんな雰囲気を持つ女性だった。
「アンドロイド?僕の知っているアンドロイドはもっと笑ってたよ?」
僕がそう聞くと、彼女は答える。
「私には笑う、を含めた感情や心がラーニングされていません。」
「ラーニング?」
「はい、ラーニングです」
そう言って彼女は首をかしげながら無表情で僕を見ながら、話を続けた
「ラーニングとは私のデータベースに無いものを外からインプットさせることです。学習、勉強と言えば貴方にわかりやすいかと。」
彼女はその無表情のまま答えた。それに僕は思ったことを話した
「わかんないや。」
「そうですか。でしたらもっとわかりやすい説明を」
そう言って律義に説明を続けようとする彼女を制して僕は言った。
「でも、おねえちゃんも僕と同じなんだね。」
「同じ、とは?」
興味深げに顔を覗き込んだ。その顔は無表情であるが、先ほどと打って変わって感情があるように見えた。
「僕もおねえちゃんも、まだまだ知らないことだらけってことかな。」
と、僕は言った。それに対して、ユノの表情が変わっていた。感情が無いはずの彼女が驚いたような顔をしていた。
「そうでしたか…知らないことだらけですか…」
彼女の驚きながらも笑みを浮かべている仕草は、僕が今まで見てきたアンドロイドよりも、より人間らしかった。
「おねえちゃん気づいてる?今驚いてる顔をしているよ。」
「そんなはずはありません。私には感情がラーニングされていないので」
いつの間にか、無表情に戻り答える彼女。しかし何故か無表情でも感情が動いているように見えた。
「うっそだー。絶対驚いてたね」
「私には驚けるようにラーニングされていません」
「じゃあ勝手に学習でもしたんじゃない?」
「その可能性は否定できませんが…」
そんな問答をずっと繰り返していたが、いつの間にか彼女の顔が笑っていた。
楽しい時間は早く過ぎるようで、話し込んでいたら夕方になっていた。
「もうずぐ夜が来ます。貴方はもう帰るべきでは?」
「あっ、もうこんな時間か…おねえちゃんも帰るんだよね。」
それに彼女は少し上を向くような動作をしてから答えた。
「はい。帰って報告書を書かねばいけませんので」
そう言って僕を見つめる彼女に僕は手を出した。それに彼女は首をかしげる。
「その手は?」
「よろしくの握手。僕、敦也って名前なんだよろしくね!今日は楽しかったよ!」
彼女は僕の手を興味深そうに見てから、僕と同じように右手で握り返した。
「こちらこそ、有意義な時間を過ごせました。」
そう言って手を放して僕から離れた。無表情だからか、すぐにでも消えてしまいそうな感じがした。
「また会える?」
不安に駆られて僕は咄嗟にそう聞く。彼女は足を止めて振り返ると、無表情だが優しい声でこう答えた。
「また会えますよ。きっと」
僕はその言葉を聞いて安心した。そして
僕の世界は暗転した。