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魔族と姫君  作者: S
6/11

秘密基地

 「さあ、ここだ。」

 ガラガラと重たい木の引き戸を開けると、奥の方にさっと光が差し込みました。

 「ここが私の秘密基地だ。さあ中に入ってくれ。」

 こじんまりとした小屋の中は意外にも整理されていて、左手の方にベッド、その奥の方に本棚と衣装棚、右手前に簡単な竈と水瓶その他の道具、その奥の方に食料棚、中央にはテーブルと椅子、そして正面奥の方には元会堂だったせいか一際大きなアルスの印が掛かっていました。

 左右の窓は格子状になっていて、その外側に蝶番でぶら下がるように雨戸が付いており、つっかえ棒を引っ張るとパタンと閉るようになっていて、テーブルには燭台が、そして手前右角にはきちんと「おまる」も用意されていました。

 しばらく籠城できそうな設備は整っているようでした。

 「さあ、ここでしばらく籠城だ。役所が開くまで、ここで過ごしたら良い。」

 「ロージョー?」

 「否、何でも無い。」

 姫は改めて男を眺めて言いました。

 「泊まるにしても、大分匂うな。」

 「ニオウ…」

 「さあ外に出ろ、湯を沸かしてやる。」

 男は有無を言わさず外につまみ出され、その側に盥と真新しいタオルが用意されました。 

 これから何が始まるのだろうと、不思議そうな顔の男を尻目に、小屋の煙突からはもくもくと煙が上がりました。

 竈で湯がぐらぐらと沸くと、姫は適当にバケツに移し、盥まで運びました。温度を調節する水バケツも用意して。

 「さあ、自分で体ぐらい洗えるよな。」

 石鹸と植物で出来たスポンジを渡すと、ジェスチャーを交え、体を洗うように促しました。

 いきなり目の前に盥が置かれ、呆けたように成り行きを見ていた男でしたが、流石に湯浴みぐらいは分かったようでした。それでも石鹸を訝しげに見つめ、姫がスポンジでごしごし擦泡だてると、共通のものが自国にもあったのか、ほぼ納得したようでした。

 そして納得した男は、湯浴みをしようと、いきなり姫の前で衣服を脱ぎ始めました。

 「わー、おまっ、…」

 またもや、ぽかんとした表情の男を尻目に、姫は勢い顔を背け、急いで小屋の隣に付いている倉庫から衝立を運び出してきました。

 姫が衝立を持ってきたときには、男は既に裸ん坊になっており、衝立は直ぐにその機能を発揮させられるのことになりました。

 (わ、見た。男の人の。凄い、筋肉。褐色の肌。そして傷。)

 何せ文字通り箱入り娘、親戚も女ばかりだったせいか、男の人の裸など、小さいときに父のものしか見たことがなかったのでした。

 その免疫がない姫にいきなり、逞しい男性の裸が見せられたとあっては、混乱するのも無理がないことだったのかも知れませんでした。

 「あ、熱くないかっ、て、適当に水を使え。」

 「アテチ…。」

 ジャバ、ジャバ…。姿は見えませんが、適当に水を使っているようでした。

 (シモンの裸を見たことがあったけど、それは上半身までだった…)

 何故か幼なじみのシモンの裸も浮かんできましたが、頭を振って直ぐに頭の中から振り払いました。

 (それにしても…)

 腹部に右鼠径部から左斜め上に走るように決して小さくない傷が付いていたのがとても気になりました。

 (やはり戦士なのか…)

 衝立の向こう側でジャブジャブ湯浴みの音がする中、姫は考え込んでしまいました。

 

 

 

 

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