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魔族と姫君  作者: S
10/11

神殿の視察

 「おはよう御座います、お姉様。今日は神殿の視察の日ですのよ。」

 「ああ、分かっている。」

 朝稽古を終え、湯浴から出た途端に生意気な妹から声が掛けられました。

 もう起きていたのか。

 いつもは遅くまで朝寝する妹が、今日は既にドレスに着替えていました。

 「直ぐ準備する、朝餉はどうした。」

 「既に頂きましたわ。」

 「そうか。」

 数十分後、支度を終えた姫は妹と一緒に馬車に乗っていました。

 「お姉様も、きちんとすれば、かなり魅力的ですのね。」

 「余計なお世話だ。」

 「まあ、怖い。」

 「それにしても、わざわざ馬車で行かなくても良いだろうに。歩いた方が早いくらいの距離だ。」

 「なんてはしたない。そんなことをすれば、向こうにも失礼ですわ。王族として格式を重んじなければなりませんわ。」

 「ふん。」

 姫も一応王族なので、妹の正論に敢えて反論しませんでした。

 それでも、やれ格式だの、礼儀だの、姫は鬱陶しくて仕方無かったのでした。

 「もうすぐ着きますわ。ねえ、お姉様、失礼の無いようにね。」

 「生意気な。」

 織女教育の賜か、最近、見てくれと行儀と作法だけは洗練されてきた妹にこれだけ言うのが精一杯になってきたと、姫は感じました。

 ガコン。

 「さ、着きましたよ。」

 扉が開き、第一王女であるヘレナ自身から馬車を降りました。

 「ようこそ、ヘレナ殿下、エリザベート殿下。御労足いただきまして、恐縮です。アルス大聖堂、司教ネメスと申します。」

 「ネメス司教、デ・アースメント・フェインファ・ゼデキア・ド・ヘレナです。今日は御役目多忙な中、我が姉妹の相手、御煩いを掛けます。一日宜しくお願いします。」

 「いや、勿体ないお言葉。」

 司教の案内で、神殿の門をくぐり、扉の奥に歩を進めました。

 前室を抜け扉を開けると、それに続く回廊、その奥に内陣、その際奥の壁には巨大なアルスの印が掲げられていました。

 回廊は厳かに質素でした。

 その中で、唯一鮮やかなステンドグラスは壁にはめ込まれ、この教会設立の物語と続く聖人がモチーフになっていました。

 魔物が跋扈する荒れ地に、一人の聖女と一人の英雄が立ち、この地に緑と水の豊かな国を建てたと言い伝えられ、その後この地を魔物から守った歴代の聖人が連なり、今に至ると言うことだと聖書は説くでした。

 内陣は回廊と違い装飾が施され、壁も漆喰で整えられていました。

 「見事なものですね。」

 姫は素直に感想を述べました。 

 「これも、アルス国の民の労のおかげで御座います。」

 「そうですね。民の労働と理解に感謝を。」

 姉妹は内陣には上がらず、その手前で、アルスの印に礼をしました。

 「さて、それでは、神座へ。」

 ネメス司教は王家の姉妹を内陣に誘いました。 

 内陣に上がると、後は目の前にガランドウな後陣があるばかりでした。

 正面にはアルスの印、床には赤い絨毯が敷いてありました。

 姉妹は一通り見たと言うことで、

 「これで全てですね。視察は是で終わりですね。後は戻りましょう。」

と司教に声を掛けました。

 しかし、司教は動きませんでした。

 「司教?」

 姫が尋ねると、司教は姉妹に向かって厳かな面持ちで口を開きました。

 「さて、ここが入り口です。」

 「入り口?」

 姉妹の困惑顔を尻目に、司教は後陣に敷かれている赤い絨毯を捲りました。

 するとそこは何の変哲も無いただの石床が現れたのでした。

 「…。」

 さらに困惑した姉妹をよそに、

 「ヴェ、ワフェット、オフェン」

と司教が唱えました。

 すると一陣の光が輝き、その床に扉が現れました。

 いきなり現れた扉に驚いた姉妹でしたが、司教は再び緊張した面持ちで語り始めました。

 「さあここからです。因みに神官や王家の血筋以外の者はこの聖句を唱えても何も起こりません。そして資格者でも邪な気持ちでは開きません。」

 厳重な守りに姫は驚きました。それ以上こんな仕掛けを今までの視察では案内されなかったのも不思議に思いました。

 「随分強固なのですね。」

 「はい、それほど重要な場所なのです。」

 「今までの視察では案内がなかったのはどうしてですか。」

 「恐れながら、王の許しがなかったのです。ただ…、後にしましょう。今回は王のお許しが出たのです。」

 「…。」

 何故父が自分たち姉妹にこれを隠していたのか姫は訝しく思いましたが、取敢えず、司教の言うとおりに着いていく方が良いと思い直しました。

 現れた扉が開かれると、そこには階段がありました。

 しかし先は真っ暗で何も見えませんでした。

 「明かりを。」

 ネメス司教が聖句を唱えると、彼らの周りに光の球が浮かび、辺りがよく見えるようになりました。

 階段はそれ自体が幅が狭く、天井も低く、一人一人屈みながら縦になって降りていくようでした。 

 それは案外長い階段でした。 

 「随分下に降りるのですね。」

 「もう少しです。」

 そして、姫が何段か数えることを諦めた頃、突然階段が途切れ、人が一人通れるくらいの扉に当たりました。

 「さ、開けますよ。中にご案内いたします。」

 ギギー、扉は鍵が掛かって居らず、普通に押しただけで開きました。

 「中へどうぞ。」

 姉妹は扉をくぐりました。

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