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魔族と姫君  作者: S
1/11

アルス国の姫

以前に投稿した物語「魔王と勇者」の前日譚です。読んでいただくと嬉しいです。

初代勇者アルスと王子アスタトロの話です。

 リンゴーン、リンゴーン。壮大な鐘が鳴る大聖堂の庭で、一人の少女が棒を振り回して、男の子に挑みがかっていました。

 「ほら、シモン、掛かってこい。遠慮は入らぬ。手加減は無用だぞ。」

 シモンと呼ばれた男の子は、

 「姫様とて容赦はしません、我がマカバイ家の一員として遅れは取りません。」

と言いながら、その年にしては見事な捌きで相手の攻撃をなぎ払い、返す力で打ちかかっていきました。ガッ、ガッという音がして二人の打ち合いは続きました。

 「そら、隙あり。」

 姫はそう叫ぶと、相手の、下段を受けて、がら空きになった側頭に、棒を打ち込もうとしました。

 「何の。」

 男の子は、棒を素早く上段に添え、同時にしゃがみ込むと、相手の足を払うように蹴りを入れました。

 「わっ。」

 見事に足払いが決まり、幼い姫は後ろ向きに倒れ、その喉元に棒が突き立てられてしまいました。

 「油断しましたな。」

 男の子が棒を収めると、姫は悔しそうに、

 「又負けた、シモン、どうしたらお前に勝てるのだ。」

と言いました。

 「修養あるのみです。しかし、姫様、もうこのようなことは止めにしなければなりません。遊びとして修練するに留まれなされませ。国王様が心配なさります。」

 「ふん、あの親父がどう言おうと、私は剣の稽古は止めないぞ。あの境界の直ぐ向こうには、恐ろしい異形の者達が住んでいて、何時この国に攻め入らんとも限らない。女とて身を守る術は身につけるべきだ。況してや、我が王家には親父の他には女ばかりしかおらん。いざ事が起これば、私も率先して、奴らを打ち払いに行かなくてはならない。」

 姫がその可愛らしい朱い唇をせわしなく動かして、ポンポン勇ましく演説する様を見て、シモンはため息を付きました。

 「姫様、姫様が剣をお執りになる必要は御座いません。この国を剣にて守るために、我らマカバイ家を初め、各将軍家、武官、近衛兵が居りまする。さらに、賢者の学院を初めとした魔法部隊や、アルス国教会を初めとした僧侶部隊もあるのです。姫様は安心して、宮殿に居られれば良いのです。良いですか、あなたは女性です。何時か、良いお相手に巡り会えるよう、女性らしい作法の方をご勉強を為されませ。」

 シモンと呼ばれた少年が、あきらめに似た表情で言うと、

 「なんだと、シモン。よくも私に向かってそのようなことを。女だと馬鹿にしているのか。くそ、男どもめ。私たち女性を子供と家庭を守る役割位にしか見ておらん。私だって王家の者だ。男などに侮辱されて成る物か。結婚だとふざけるな。もし相手が出来たとて、我が召使いのように扱ってやる。」

姫は、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしました。

 姫は再び棒を構えると、シモンに打ちかかっていきました。

 不意を突かれたシモンは、その棒を避けきれず、肩に当たってしまい、避けようとした弾みで、地面に倒れてしまいました。

 「どうだ、参ったか。この男め。」

 棒をシモンの胸に押しつけ、倒れた身体の上にまたがると、姫はとてつもない満足感に包まれました。

 「きゃあ、お姉様、なんてことを。シモン様大丈夫ですか。」

 綺麗なドレスを着て、カールの掛かった金髪を両方で縛った、可愛らしい女の子が、籠を下げながら、こちらに駆け寄ってきました。

 「お姉様、またこのような端ない真似をなさって。シモン様の上から直ぐ降りなさい。シモン様大丈夫ですか。お怪我などは。」

 自分を睨み付けながら倒れた少年を抱え起こす小女を、姫は白けた気持ちで見ていました。

 「全く、お姉様は、このことはお父様に報告しますからね。もしシモン様にお怪我でもあったら、私許しませんことよ。お姉様も、もう二度と暴力は止めにして、淑女の勉強をなさると良いわ。」

 自分よりも容姿と立ち振る舞いが小綺麗に整えられた妹にこう言われて、

 「何を、妹の分際で。たしかにお前は可愛いよ。女の子らしいよ。私と違ってな。ああ、反吐が出る。女々しくてな。それは、シモンもお前を好きになるだろうよ。お似合いのカップルだ。そうだ、許嫁にして貰おう。結婚が楽しみだ。」

語気も荒わに、意地悪な口調で言いました。

 姉の大声と、酷い言葉に、妹は一瞬呆気にとられましたが、直ぐにシクシク泣き出して仕舞いました。

 「酷いわ、いくら姉様でも、あんまりだわ。ああ、お母様が生きていらっしゃってくださったら、姉様もこんな格好で、こんなことなんて言えないのだわ。」

 しばらく成り行きを見守っていた少年は、姫に背を向け、シクシク泣く小女に手をさしのべると、顔だけこちらに向け、やや睨み付けるようにして、

 「姫様、あまり妹君をいじめないでくださいませ。このようであれば、これからは姫様のお相手は出来ません。以後、私は剣のお相手は致しません。これからは、侍従の者達と、姫君に相応しい稽古を為されませ。さぁ、エリザベート様行きましょう。」

と言いました。

 「ふん、我が妹と宜しくやってくれ。我が妹は我が自慢の淑女だからな。」

 歩き出した二人の背に向かって最後の悪態をつくと、姫は一人取り残された所で、握っていた棒を思いっきり地面に叩きつけました。

 棒が真っ二つに折れると、姫の気持ちは少しスッキリしました。

 「なんだい、シモンめ、エリザベートめ。」

 西の空が赤くなり始め、少女は神殿の庭の崩れかけた塀の上に腰をかけると、少し冷たい風が金色の髪を撫でるように吹き抜けていきました。

 「お母様、本当に生きていらっしゃったら。」

 ぱっちりとした可愛らしい目から冷たい物が流れて行きました。

 姫も妹と同じように、中々の美人でした。どこか勝ち気なところもありますが、きちんとした身なりをすれば、流石一国の姫に相応しい気品に溢れ、貴族の子弟の心を捉えて放さない様な女性になるのでした。

 しばらく夕暮れの風に浸っていると、

 「ああ、姫様探しましたぞ。」

と、声がしました。そちらに目を向けると、宮殿付き侍従長のエルダトが何人かを引き連れて、こちらにやってくるのが見えました。

 「姫様、我が愚息が失礼なことを。平に平にお許しくださいませ。さぁ、シモン、謝りなさい。」

 その中でも体が一際大きい、マカバイ家のユダ将軍が、息子シモンを前に出し、その頭に手を置くと生来の馬鹿力で無理矢理下げさせました。シモンの体からバキバキと自然ならざる音がして、下げられた顔から、

 「済みませんでした、姫様。」

と言う声が発せられました。

 申し訳なさそうな将軍と対照的に、心配と安堵と怒りを混ぜ合わせたような顔の侍従長エルダトは、

 「さぁ、姫様お早く宮殿に、国王様がお待ちです。」

と姫を促しました。

 「げっ親父が。怒っているのか。」

 「相当お怒りのようです。」

 「シモンとエリザべートめ、告げ口しやがって。こりゃ、今夜はお説教だな。」

 「何をぶつぶつ仰って居るのです。お早く、さあ、お早く。」

 周りを城の家来に囲まれて、捕らわれた獣のように、姫は宮殿、ミハエル城に連れられて行きました。

 


 

 

 

 


少しずつ投稿して行こうと思います。読んでいただくと嬉しいです。

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