六 鬼と翡翠の末路のこと
「いますぐそれを剥がせ!」
ふたたび美鳥を蹴り上げようと茨木童子が近づいてくる。
止めようとした渡辺綱はふらつき、地面に膝をつく。
「早くしろ!」
怒り任せに美鳥を踏みつけようと、茨木童子は足を上げた。
それを避けようと、美鳥は目を瞑りながら身体をずらす。
ぐしゃっと音がして目を開けると、茨木童子は自分の手のひらを踏みつけていた。どうやら、首が切れているのを気にしてしっかりと足元を見ていなかったらしい。
「あ――――」
茨木童子が足を上げると、踏みつけられた手は指の骨が折れてばらばらな方向を向いている。
そして、手のひらに填めこまれていた翡翠は、粉々に砕けていた。雨に打たれて、翡翠の粉はそのまま地面へと流れて行く。
「翡翠が……!」
美鳥は慌てて掻き集めようとするが、夜陰の中で砕けた翡翠は溶けるように消えてしまった。
「なんてこと……奴奈川姫様が」
戦慄声を漏らす美鳥の前で、鬼の右腕が白い煙を上げ始めた。
「なんだ、これは!?」
慌てふためく茨木童子の声に視線を向ければ、茨木童子の全身からも白い煙が出ている。そして、炎はないのにまるで焼かれたように茨木童子の身体は黒く焼け始めた。
「翡翠が割れて力が失われたから、不死ではなくなったの……?」
茨木童子の身体は、みるみるうちに真っ黒に焼け焦げ、そして雨に打たれて白い煙を上げながらぼろぼろと崩れて行く。
「これが、悪名を馳せた鬼の末路――」
断末魔を上げる茨木童子を呆然と見つめながら、美鳥は呟いた。