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翡翠を填めし鬼の譚  作者: 紫藤市
第六章
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四 翡翠の勾玉があらわれたこと

(どうすれば――)


 歯噛みしながらも必死で美鳥が考えていたときだった。

 ひゅんっと音をたてて漆黒の(つぶて)が茨木童子に向かって飛んだ。


(弥彦!?)


 さきほどまで土塀の下でうずくまっていた弥彦の姿はない。

 弥彦が人の姿を解き、別のものに化けて茨木童子に飛びかかったようだ。

 茨木童子が加えていた腕に黒い礫はぶつかり、腕はその衝撃で床に落ちた。そのままころころと転がり、庭に倒れた渡辺綱の横で止まった。

 さっと人の姿に戻った弥彦は腕を追い掛けて庭に下りると、ずっしりと重い腕を拾った。


「美鳥!」


 腕を勢いよく弥彦は放り投げたが、あまりの重さにたいして飛ぶことなく庭石にぶつかって落ちた。

 美鳥は慌ててまた這うようにして腕に近づく。

 途中、浅い池に落ちたり、躑躅(つつじ)の木の茂みにぶつかったりしたが、無心で進んだ。


「返せ!」


 茨木童子は弥彦を太刀で切り捨てようとしたが、弥彦は素早く茨木童子の背後に回って逃げようとする。

 その隙に美鳥は鬼の腕に辿り着いた。

 黒くごつごつと固い鬼の腕の手のひらを覗き込むと、小指の爪ほどの大きさの翡翠が嵌まっている。


「――あった」


 すぐに指で翡翠を取り出そうとするが、焦っているためと、手のひらの肉にかなり食い込んでいるせいで、なかなか翡翠は剥がれない。


(早くしないと……)


 弥彦が茨木童子の周囲を走り回っているおかげで、茨木童子は美鳥がなにをしているか見えていないらしい。童女では腕を抱えて逃げることもできないと考えているだろう。


(奴奈川姫様、はやく鬼の手から逃げてください)


 爪を立てて翡翠を剥ぎ取ろうとするが、やはり翡翠は手のひらに貼り付いたままだ。


(なにか道具があれば)


 小刀かなにかで掻き出すしかなさそうだが、適当なものが見当たらない。

 渡辺綱の胸に刺さっている脇差しを抜くしかないだろうか、と考えたときだった。


「き――――」


 空気を切り裂くような鳥の悲鳴が響いた。

 美鳥が視線を上げると、烏の姿になった弥彦が濡色の羽根を散らしながら地面に落ちていくところだった。胸の辺りが真っ赤に染まっている。


「やひ、こ」


 美鳥の視界が弥彦の血と羽根の色で染まる。

 弥彦が地面に転がると同時に、茨木童子は美鳥の前に立った。


「それは俺の腕だ。返せ」

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