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魔法少女サイモン  作者: ダイバンブー
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三馬鹿襲来

 サイモン一行はトルーヴェンを出たあと、馬車の中で夜を過ごしまた王都ノーヴァへ向けて進んでいた。馬車の進行方向の右側にはトルーヴェンの森が、左側には大きな平原が広がり遠くには山脈が見える。都会育ちの(そら)には珍しい景色ばかりで退屈しなかった。


「日が沈み切る前にはノーヴァに着くだろう。慣れない旅で疲れるだろうが辛抱してくれ」

「あ、いえ、大丈夫です。馬車に乗るのって初めてなのでちょっと楽しいです」


 日本人の女子中学生が本物の馬車に乗る機会などそうそうなく、事実として空はこの旅を楽しみ始めていた。


「お嬢ちゃんはトルーヴェンから出るのは初めてか?サイモンのとこに来る前は何してたんだ?」

「えっと……」

「……孤児院から引き取ったんだ」

「そうだったんだ……」


 そういう設定である。メリルと合流する前に三人で考え、人に聞かれた時にはそう答えられるようにと練り上げたものだ。家族がいるとややこしくなるため、孤児ということにした。


「なんで孤児院のガキをメイドに?わざわざこの子を選んだ理由もわからんが……っと詮索はなしだったな。悪い悪い」

「……」

(あの、話してしまってもいいんじゃないですか?せっかく考えたんですし説明する練習にもなるんじゃ)

「……!そ、そうだな」

「ん?何だ?」


 空の魔法で頭の中に直接話しかけられ、サイモンは思わず返事をしてしまう。トッドとメリルには聞こえていないため、二人は不思議そうな顔をした。


「いやなんでもない。……実は空は去年の冬に孤児院に拾われたんだが、その前の記憶がないんだ」

「記憶が!?本当に?」

「そ、そうなんです。自分の名前だけは覚えてたんですけど、他は何も……」

「そりゃまた難儀な話だ」


 無論これも設定の一つだ。空はこの世界に来て日が浅いため文化や風習も何もわからない。それを不自然に思われないための力技だ。


「事情を聞いたサイモンさんが、外の世界を見た方が記憶が戻るんじゃないかって私をメイドにすると引き取ってくれたんです」

「……何にも覚えちゃいないのに、メイドの仕事なんか出来るのか?」

「それは……」

「が、頑張って覚えます!」


 両手に握り拳を作って決意表明する健気な姿に、流石のトッドもそれ以上の皮肉は言えなかった。


「……まあなんだ、応援するよ。うん」

「全部教えてあげるから、一緒に頑張ろうね空ちゃん!」

「お願いしますメリルさん!」


 鼻息を荒くする新米メイドを見てサイモンは感心していた。一昨日の夜に話した時はまだ不安を隠せない表情に見えたが、今はすっかり前を向いているようだ。


(強い子だな。俺よりもよほど……)




 太陽が真上に昇ろうかという頃、馬車は平原の小さな丘の麓を走っていた。突然、馬の嘶きと共に荷台が大きく揺れた。


「なんだ、どうした!?」

「ぼ、坊ちゃん、賊です!」

「何!?」


 幌から顔を出して外を見れば、地面に矢が刺さっている。幸い馬や御者は無事だ。


「どこから撃ってきてる?相手は何人だ!?」

「それが……」

「こっちだ見習い騎士のお坊ちゃん!」


 声のした丘の上に顔を向けるサイモンとトッド。そこには二人の若い男が立っていた。背の高い痩せた男が剣を、太った男が弓をこちらに向けている。


「二人だけ……?他に仲間が隠れてるのか?」

「おい、それよりあいつ俺らを見習い騎士って言ったぞ」


 正体のわからぬ二人の賊に警戒しつつ、剣を取り臨戦態勢に入る二人の若き騎士。一方丘の上の二人は反応がないことに戸惑った。


「あれー、聞こえてないのかな?」

「……トルーヴェン騎士学校の首席が乗ってるのはあの馬車で間違いないんだよな?ドロシーの奴しくじったのか?」

「うーん、自信満々に間違いないって言ってたけどなー。もっかい確認してみたら?」

「なんか恥ずかしいけど、そうすっか。-おい!お前らトルーヴェン騎士学校の卒業生だよな!?」


 やはり相手はこちらの身分を理解して襲撃を仕掛けていた。しかしなぜ?金銭目的なら商人や通行人を狙えばいいだろうに、わざわざ戦闘能力のある自分たちを狙う理由がわからなかった。


「だとしたらなんだ?」

魔法石(マナリス)を寄越せ」

「……そういうことか」


 魔法石(マナリス)はその絶大な力と選ばれた騎士のみが所有出来るという希少性から、賊や邪悪な魔女、更には敵対する国に狙われるということが少なくなかった。ただし魔法石(マナリス)を所有するということはすなわち魔法少女であるということでもあり、魔法少女に挑むのは常識で考えれば無謀なことである。この二人の若者が何の策もなく正面から堂々と強奪しようとしている可能性は、よほどの考えなしでない限りはありえないだろう。であればやはり仲間がどこかに潜んでいるのか。


 サイモンの予想は当たっていた。丘の上の二人は囮、サイモン達の後ろの馬車の更に後ろ、森の中から静かに近付く影があった。空ほど完璧なものではないが気配遮断魔法でゆっくりと馬車に忍び寄っていたのは女だ。それも髪がピンク色でとても豊満な体つきかつ薄着の、すこぶる派手な女だ。


(もうちょっと、もうちょっとで念願の魔法石(マナリス)が手に入る……!やれる、このドロシー様ならやれるよ!)


 女の名はドロシー。のっぽのダンと太っちょのディンゴと三人でその名もドロシー盗賊団。今まさに一世一代の〈いけ好かない騎士学校のボンボンから魔法石(マナリス)を奪ってやる!〉作戦が決行中であった!

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