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第六話 ストロングガール

魔獣蠢く西門付近には、既に衛兵ですら残っていなかった。

町は破壊され至る所に瓦礫が散乱する。

先程、ユタロウとゴトーのすれ違ったのが最前線で戦った「この町」の最後の1人らしい。


「この町」の、、、



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


遡ること数分前。



「いつからここは“戦場”になったのよ!」


眠っていたはずのリーンは既に宿舎の外にいた。

窓の外が騒がしく、休める環境ではなかったらしい。怠い体に鞭を打ち外に出てみると、町中の至る所に[ピグミーオーク]が解き放たれていた。


「、、いけない!!」


少し離れた所で、母親とはぐれて泣きわめく町の少女が今まさに魔獣の餌食になろうとしていた。


「っ間に合え!エミューキャノン!」


リーンは魔法の必中射程圏内まで走ると、掌を魔獣に向け素早く魔法名を詠唱する。何処かともなく水が集まり、林檎ほどの“水玉”が敵目掛けて高速で飛んでいく。


ドバン!


少女の前から一瞬にして魔獣が消えた。

奥の家の壁に頭からめり込み動かなくなっている。


「、、ふう、良かった、、」


普段なら寝てても撃てるような魔法だが、今はそれですらキツい。

連日の転移魔法によりリーンの魔力は予想以上に消耗していた。


すぐに少女の元へは1人の女性が駆け寄って来た。


「ハナン!もう!探したじゃない!」


「あのお姉ちゃんがズドーンって助けてくれたの!」


母親は遠くにいたリーンに向けて深々と一礼すると、少女の手を強く引きながら急いで中央街へと走った。

リーンも笑顔を作り手を振って応え、親子を見送った。


彼女たちを追う魔獣がいない事を確認した後、体のダルさを感じながら物陰に隠れ状況を分析する事にした。


まずは丸腰で出て来てしまった事を後悔する。一度宿泊に戻ろうとも考えたが、体がこんな状態ではリスクを背負って剣を手に入れたとしても、その後満足に戦えはしないと、すぐに考えを改めた。


ここで助けが来るのを待つしかない。

ゴトーならこの程度の魔獣、例え100体いても危なげなく蹴散らす筈だ。


「それにしても、、やっぱりおかしいわ」


ゴトーがいる安心感のおかげか冷静さを取り戻し、この状況の異様点に疑問を持つ余裕ができた。


本来[ピグミーオーク]は臆病な魔獣。

山の中を好み、人里に降りて来るなんて余程の事がない限りあり得ない。

それがこんな軍勢で襲って来るなんて、、

何が目的なの?


考えれば考えるほどに、この状況はあり得ないのだ。


臆病な彼らを動かしている物があるとするなら、そんなの答えは一つしかない。


「、、、魔王が動き始めたって言うの?」


思考を巡らせる事に夢中になっていたせいか、周りから魔獣の気配が消えた事に気付かなかった。


リーンは警戒しつつも、西門町のメインストリートを見渡せる位置まで移動し、ちょこんと物陰から顔を出した。


遠くの方から何かが悠然と歩いてくるのが見える。

全身を覆い被せるマントを身に纏い、隠せる筈のない程の禍々しい気を放っている。


魔人だ。


リーンは息を殺し、魔人が通り過ぎるのを待つ。

魔人のレートはA以上が基本。

一体で国一つを滅ぼせる強さだ。


魔人が関わっているとわかった以上、もう1人では動けない。全開の自分ならともかく、今はD級ですら強敵だった。


リーンは再び物陰に身を隠した。


ツカ、ツカ、ツカ。


すぐ近くを魔人が通る。

冷や汗が滴り、鼓動が高鳴る。

今気付かれたら太刀打ち出来ない。


ツカ、ツカ、、、!


足音が自分のいる付近で止まる。


「ん?何やら強者の匂いがしますね。お隠れになられているのかな。」


ツカ、ツカ、ツカ。


魔人は本能の赴くまま路地に入ってきた。

リーンの隠れるゴミ溜めは目と鼻の先だ。

もはや息を止める事こそ最善だった。


「、、思い過ごしのようですね」


ツカ、ツカ、ツカ。


どうやら方向を変えて再びメインストリートに戻ったらしい。

リーンは限界まで止めていた呼吸を再び開始する。

助かった。急激な安堵感に襲われ、ヘタリ込む様な座り方になる。

手を握る様に合わせ、その手に顔を近づける。


「お願いゴトー、、ついでにユタロウ、早く来て、、」


「誰かをお持ちですか?お嬢さん」


顔を上げるとそこにいたのは魔人だった。


「キャー!!」


魔人はジロリとリーンの顔を覗き込む。

リーンはと言うと、這いつくばりながらも体をおこし魔人がいる逆の方向へ駆け出した。



「オーバーステート!!」


リーンの生存本能が、この場を乗り切るために選んだのは肉体強化魔法。

力の限り地面を蹴り、魔人との距離を一気に取ると、その後も全速力で駆ける。


「そんなに急いでどこへ行かれるのですか?少し遊んでくださいよ!」


気付いた時には魔人はリーンと並走していた。

逃げ切れる相手じゃない。


リーンは急ブレーキをかけ、開いた両手を前に突き出し照準を合わせる。


「あなたみたいな男は好みじゃないのよ!エミューキャノン!!」


ドバン!!


魔法は顔面にクリーンヒットした。

魔人は思わず体が後ろによろけるも倒れはしない。


「嬉しいなー。遊んでくれる気になったんですね!」


ノーダメージ。

その後は一瞬だった。

瞬きを一回。その間に間合いに入られ、気付いた時には左肩に拳の感触だあり、斜め前方へ吹き飛ばされていた。


バゴーン!


「、、冗談じゃない、、わよ、、」


肉体強化魔法[オーバーステート]を発動していなければ即死だったに違いない衝撃が体に伝わった。


「わお!なんて頑丈なお嬢さんだ!嬉しいなー」


この魔人にとって私は敵でもなんでもない。

ただの“遊び道具”に過ぎないんだ。

そう確信した途端リーンの戦意と[オーバーステート]の効力が途切れた。


「お次は斬撃なんてどうでしょうか?」


魔人は右腕だけをマントから出し。その鋭利な爪を、魔力でフルーレ剣の様に長く鋭く形を変形させた。


そして先程同様、物凄いスピードで近づいて来た。


「さよならストロングガール!!」


長く鋭い爪がリーン向けて振りかぶられた。

リーンは成すすべなくグッと目を瞑る。


魔人、右腕一閃。



ザキン!!



「おんどれわー!!」


「っ貴様、、!」


疾風の如く現れ、電光石火の如く剣を振り抜き、魔人の爪を力強く切り落とすゴトー。


リーンが目を開けると頼もしい男の背中がそこにはあった。

次にスッと目の前に手が差し出される。


「良かったー、、!間に合った、、!立てますかリーン王女」


激しく息切れし、額には大粒の汗が光るユタロウの姿が目に映った。

泣きそうにになるのをグッと堪え感情を整える。


「あんたたち!!遅すぎるわよ!死ぬかと思ったじゃない!、、、一人で立てるわよ!」


ユタロウの手をパシンと払いのけると、元気を取り戻したかの様にスクッと立ち上がり、魔人に向かい腕組みをする。


「よし、反撃よ!あんたたち!あいつを死刑にしなさい!」


いつもの様に振る舞うリーンだが、足が震えているのを二人は見逃さない。

ボロボロな体で無理をしているのをわかっていた。


「ユタロウ殿、リーン様を頼みましたぞ」


「僕も戦います!」


ユタロウはエクスカリバーの柄に手をかけたが、ゴトーはそれを止める。


「もしもこのゴトーがあの者に敗れる様な事があった場合はお願いします」


「ゴトーさん、、はい、、わかりました!」


ユタロウ自身もわかっていた。

素人の自分が戦った所でゴトーさんの邪魔にしかならない事を。


でも、今ここで「戦う」と宣言しなければ、行動に移さなければ、一生後悔しそうな気がしていた。


「待たせましたな魔人殿。死ぬ覚悟はできましたかな。」


ゴトーが低く剣を構える。既に[オーバーステート]は発動状態だった。


「待ちくたびれました、、そこの人間の様にすぐ壊れないでくださいね♪」


魔人はリーンの事を指差し、ケラケラと笑っている。


「、、、居合、、遠雷の閃き。」



ピカっと光ってから遅れて雷音が轟くように、魔人もまたゴトーが剣を振り切った後、少し遅れて、切られたことに気付くのであった。


「笑止千万、、」


魔人の顔から笑みが消えた。

リーンの孤軍奮闘を書いたこの第六話ですがいかがでしたでしょうか。


私も書きながら「ゴトーとユタロウはまだ来ないのかよ!」とハラハラしていました(笑)


それにしてもゴトーさんイケメン、、


主人公はユタロウですよ(笑)

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