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第二十九話 長考の末に。

泣きじゃくっていたのは、時間にしてほんの数分だけだったかも知れない。


自分が確かに転生していた圧倒的な事実。『あの世界』で生きていたと言う安堵感。

それが涙となって溢れ出した。

今はもうスッキリとしているし、意識も良好。


そろそろ冷静になって今の事態を考察するべきだ。


まずこの状況が現実かどうか。

限りなく高い可能性で『(いな)』だ。

エクスカリバーの存在がそれを証明しているし、何より俺の思考回路があの頃とは違う。この子供の体には不釣り合いなほどのリアリズムを持っている。


なんらかの原因で死亡し転生させられたと言う可能性もあるが、それも『否』だろう。

あの会場に集まっていたのは王国最強の戦力だ。いくら魔王と言えど、誰にも気付かれず忍び寄り、一瞬で俺を消すなんて出来るはずがない。もしそれが出来るのなら、あの世界のパワーバランスは『クソゲー』の部類になってしまうし、そもそも魔王討伐なんて発想が人類から提唱されない。


身内に殺された説も潰しておく。

あんな目立つ場所で反乱なんて自殺行為だ。やる意味が無い。


そして何より重要なのは、俺を一撃で仕留める難しさだ。


[暴力耐性S]と[サプライズS]。自分で言うのもなんだがこの2つの固有好きるを持つ自分の防御力はチートもいい所。

『無意識に大陸を引き裂ける』ぐらいでないと確実に俺を消すなんて出来ないんじゃなかろうか。


よってこれは現実では無いし、ましてや転生でも無い。


残る可能性はとは何か。


もう一度こうなる前、まだローランド城の階段上広間にいた時の事を思い返してみよう。


若獅子会議の仲間や、リーンたちと喋って居た時、周囲に変わった動きは無く、こうなる『きっかけ』は特に思い当たらない。


変わった動きがあったとすれば、3人の六王衆が入ってきてからだ。


圧倒的なオーラを纏いながら。

一同の注目を浴びながら。


いや、あれを正確に表現するならば、


圧倒的なオーラを『放ちながら』。

一同の注目を『集めながら』。


いくら強いと言えど、普段からからあの状態では無い筈だ。伊達に2年もサイゴーさんの弟子をやっている訳ではない。

あれは彼が威嚇をする時に自ら意識して放つオーラと同種だ。


そして最初に入ってきたヒョロッと背の高い緑髪の六王衆が言ったセリフ『いきなりだが半分は消えてもらう』これがキーワードになって意識が飛んだ。


ここまでの情報を都合よく解釈すると、魔法学の教科書に太字で目立つよう書いていた文言と重なる。


[油断・周知・行動。この基礎原理を突き詰めるだけで、この魔法は奥義へと昇華できる可能性を持つ。]


その魔法の名は『幻影心操術(げんえいしんそうじゅつ)』略称で言う所の『幻術』だ。


六王衆の中でもエキスパートあろう男が発動させた幻術だと考えれば、このリアリティにも説明がつく。


「はぁ、、」


無造作に周りにある物に触れてみる。その質感や重量感は幻術だと判断した上で触っても本物にしか思えなかった。


「六王衆ってのは創造神か何かなのかね、、アイツら大丈夫かな」


リーンやべルルならきっともう気付いているはず。タケルやコンちゃんも無難にやってそうだ。シューゴとハシェードは俺と同じで座学が苦手なタイプだから少し心配だ。


幻術を自ら抜け出すのに必要な要素は[認知・用意・衝撃]だ。[認知・用意]とは要は精神面。こちらの条件は既に満たしている。問題は[衝撃]。


良くあるのが、皮膚を噛み切ったり、骨を折ったりするような『痛覚』を刺激する方法だが、これだけ高水準な幻術を抜け出すのに、どの程度の痛みが必要なのか想像も付かない。


授業では、強すぎる衝撃は現実世界に戻った後にも精神的に影響する可能性があると習った。


その為、この方法はあまりやりたく無いし、実際にやる勇気は持ち合わせていない。


変化球ではあるが、もう一つ方法がある。

幻術の中の世界に向き合い、精神的に乗り越えるやり方だ。

つまり幻術の意味を無くし、内から無力化するのだ。


考える余地も無い。

今の自分なら『後者』だ。


なぜだろう。

さっきまでこの環境が震える程怖かったはずなのに、エクスカリバーを見つけてから冷静になれたし、震えも止まった。


あの世界で過ごした時間、経験。全てが自信となって漲っている気分だ。


扉の隙間からは若干だが光が漏れている。

その明るさ加減に、バカ息子が既に家にいるという事を加味して、夫婦が帰って来るまで後1時間ってとこだろう。


「よし!魔王討伐の前哨戦だ。この世界の絶対悪をブン殴る!」


そして俺はとりあえず激しく腕立て伏せを始めるのだった。

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