第二十七話 一触即発!
「おい、、新米の奴ら見てみろよ、、」
「あちゃー、、また凄いのに絡まれてるな、、助けるか? 」
「まさか!触れぬ神に祟りなしってな。」
この状況はある意味自業自得であるが、それにしても、こんなにもわかりやすい見て見ぬ振りを体験するのは初めてだ。
さっきまでギラギラした目でこっちを見ていた連中も、あからさまに目を逸らす。
「ちょっとちょっとべルル、、この人たちってもしかして有名人? 」
「ユユユタロウさん!本当に知らないんですか!」
ヒソヒソ声で話すも、目の前にいる3人は眉間に皺を寄せたり、メガネをキラッと光らせたり、ただただニコニコ微笑みかけたりして反応してみせるのだった。
「最初に近づいて来た筋肉隆々の大柄な方は[ロドリコ・バーキン]様、、第41代若獅子会議の筆頭で現ローランド王国最強の騎士団『星の光』の千人隊長です。[不死身のロディ]と言われ、その絶対的な強さから戦う前に白旗を上げられると言う噂もあります。」
他を圧倒するような肉体を誇り、声も大きい。対峙するにはある程度の耐性を持っていないと萎縮してしまいそうだが、ユタロウにはその『耐性』が整っている。
『サイゴーさんよりはマシ』
これがユタロウの率直な感想だった。
同時に、何故だか仲良くなれる気がしてならなかった。
「真ん中のメガネの人は? 」
ヒソヒソ話は続く。
今度は自分の事を話されていると察知した彼のメガネは光を反射しているどころか光線を放っているかのように光度増している。
「あの方は[シャオラン・ドラコ]様です。第48代若獅子会議の筆頭で『柔の極み』とも謳われる『シャオラン流』の創設者ですよ!異例の若さでローランド王国徒手拳闘団の指南役に任命されて、今や国政にも関与されてるとか。」
この人は苦手なタイプだ。
シャオランは見た目があきらかに理論派。『サプライズ』と言うアバウト極まり無いスキルを持つ人間にとって相入れない人種に思えた。
「ねえねえー!物知り君!僕の紹介も早くー!」
「は!、、はいぃ!とっとと、、いて!」
瞬き一回。人体の仕組み上、人間が作り出せる最速の動作。
その男はそれよりも早く動いたと言う事になる。
ベルルは意識せず目を開けた瞬間、人の顔面があまりにも近くにあったという衝撃で後ろに大きく仰け反り尻餅をついてしまった。
この人は他の2人と違った意味でいかれてる気がする。いや、『気がする』と言うのは甘い判定だ。誰がどう見てもいかれている。
ベルルは手で臀部の埃を払い終わると、もはやヒソヒソと隠すのを辞め面と向かい紹介を始めた。
「この方は第60代若獅子会議の第2席だった[ラスカ・ヒルライム]様。当時、実力的には1番上とされながら、あまりにも自由過ぎると言う事からトップになれなかったと言う話です、、 現在は、、あくまで噂ですが、王国に数人いるとされる特殊諜報員『隠密者』の1人だとか、、」
「わあ、、すごい!本当に何でも知ってるんだね君は、、僕が『隠密者」って事は極秘中の極秘なのに!」
ラスカはベルルに対して如何にも興味津々といった態度を示すが、この情報の漏洩に黙ってない男がいた。
「聞き捨てならんな。貴様、、その情報はどこから得た。場合によっては連行させてもらうぞ。」
この言動から見れば、どうやらシャオランが国政に関与していると言うのも本当らしい。今日何度目だろうか、特殊発光装置が付いているであろうメガネが光る。
ここまで主張の強いメガネはそうそういない。もはや彼の事は敬意を込めて『メガネさん』命名しようと思う。
そんな事よりこのままではべルルが本当に連行しかねない。
こう事態に慣れていない優等生のベルルの顔面は蒼白。あわあわと言葉にもならない言葉を発するだけだった。
「せんぱーい。それならその噂を知ってる私も連れて行かれるのかしら? 」
「わいもや!ラスカ先輩が隠密者なんて有名な噂やで!」
「ちっ、、面倒だ!知ってた奴は手を挙げろ!!そして全員このメガネについて行きやがれ!」
もちろん手を挙げる者などいない。
場がただただ静まり返った。
「まじかー。知らなかったわー。疎外感感じるわー、、お前知ってた? 」
「あなたたちの存在だって今知ったばかりですよ。」
「だよなー。すまんすまん。」
まるでサイゴーと接するかのように自然体でロドリコと接する。
やはりこの人とは気が合う。
ロドリコは気性が荒いが基本いい人みたいだ。
「、、、わかった。どうやらお前ら新参者の中にスパイが紛れ込んでる可能性があるようだな。代64代若獅子会議5名。全員を拘束する。」
「えー!俺は見逃してよー!ロドリコさーん!」
「すまんな。あーなったシャオランは止められない。」
シャオランは大きく円を描くように両腕をゆっくり回し戦闘体制に入る。
纏うオーラが変わった。素人目に見ても凄まじい実力だと言う事がわかる。
「いくら先輩ゆうても、わてら5人相手に勝てる思とんのかいな!」
「力ずくってわけね、、そう言うのもたまには悪くないかも!」
「これ以上俺を怒らせるなよ!」
シューゴ、コング、ハシェードもそれぞれに殺気を立て出す。彼らが暴れ出したらこの場所もただでは済まないだろう。
「僕も混ざっちゃおうかな!シャオランチームっと!」
「ラスカさん混ざって来たよー!ロドリコさーん!」
「本当にすまんな、、ああなったラスカはもっと止められない、、」
数的には有利だが、シャオランとラスカの放つ威圧感はそれを感じさせない。むしろ不安を覚えるほどだった。
「ダメです!シャオラン様もラスカ様も『次期六王衆』の筆頭候補。実力的には今なってもおかしくない方々なんですよ!勝てっこないです!」
「うるせえ!戦う気が無いなら失せろ!」
「えー、、やるのー、、」
ユタロウも仕方なく剣を抜き、だらし無く構えを取る。痛いのは嫌だからいっその事、いの一番で捕まってしまいたい。
そんな事を考えていた。
「行くぞ!」
ドン!!
「何事よ!階段下にまで殺気が漂って来たわよ!」
重力魔法で強化した足で床を踏むと、地鳴りにも似た音が響いた。彼女の踏みつけた床はだいぶへこんでいたが、ここが実家と言う事もあり全く気にした素ぶりは見せない。
少し遅れて後ろから第64代若獅子会議の筆頭[タケル・リクドウ]も顔を覗かせた。
「リーン王女様!」
「リーン王女だ!トコナッツ遠征からご帰還なされたのか!」
リーンは周りの目も気にせずにズンズンと進み出す。向かった先に居たのはもちろんユタロウだった。
「やっぱり中心に居たのはあなたね!本当にめんどくさい性分なんだから!」
「リーン、、!!今ほど『お前に出会えて良かった』って思った事はないよ、、」
リーンの顔が急に赤くなる。
そして急に手を後ろに組み下を向くと、石コロを蹴るような仕草をして見せた。
「なな何も、こんな人前で、こここコクハクっての、いや嬉しいけどさ、エヘヘ、、ジュル、、」
「おーいリーン。どしたー? なんか変な物でも食ったのかー? 」
「なによー!ダーリ、、あ、ユタロウたらー!」
リーンは照れながらもユタロウを思いっきり叩くと、その勢いでユタロウは床にへばりつくような体制になった。
「リ、リーンよ、何か勘違いしてないか? 」
「は? 何がよ? 」
「俺は王女であるお前の力でこの場を納めて欲しいってだけだ!」
リーンは冷静になって周りを見渡すと、今にも戦闘をおっぱじめそうな男たちが対峙してる事に気付いた。
そしてユタロウの言葉も意味も何となくだが察するに至った。
「何よ!ユタロウのバーカ!変態!スケベ!もっとわかりやすく言いなさいよ!」
「何か知らんが、勘違いしてたのはリーンじゃないか、、」
「ユタロウも罪な男だねー。」
タケルは一定の距離感を保つも、ユタロウとリーンの会話を聞きつつ穏やかに微笑んでいた。
「しょうがないわね、、はいやめやめ!両方拳を納めなさい。」
「リーン王女様、こ奴らにはスパイ容疑がかかっています。そこをおどきになって頂きたい。」
「シャオラン。あなたはいつからこの私に意見できる立場になったわけ? 」
シャオランは少し怯むと、仕方なく拳を下げた。それに合わせたかのように他の全員も殺気をしまい込む。
「何があってこうなったのよ? スパイって何よ? 」
「それがさ、、」
ユタロウがここまでの経緯をわかりやすくリーンに耳打ちすると、彼女は深くため息を吐いた。
「シャオラン、、大丈夫だからもう下がっていいわよ、、っていうかとっちめるならそこの変人戦闘狂にしなさい」
「え? 僕? 僕は別に構わないよー!シャオランともやってみたかったし」
「そう言う事よ、、」
ユタロウたち、その場にいる者には訳が分からない。もちろんシャオランも同様だ。
「この件に関しては、随分前、同じように情報漏洩かも知れないって騒ぎになってね。ラスカ以外の隠密者に動いてもらって調べた事があるのよ。そうしたら、、」
ラスカは気配を消し後ろへ下がろうとするもロドリコによって首根っこを掴まれる。
「ラスカ本人が国中の酒場に行っては変装して噂をばら撒いている事が分かったのよ!強い奴に狙われたいって欲望でね!後でこっぴどくパパ直々に怒られたのよね」
「ラスカ、、貴様と言う奴わ!!」
「ごめんよー!面白そうだったから黙ってた!」
「その時の噂が今も一人歩きしてるって事よ。だから彼らが知ってても無理ないわ。」
シャオランは話を聞き終えると、ラスカを一瞬ギロッと睨み、一歩前へ出た。
そしてユタロウたちに向かい深く頭を下げる。
「この度は私の勘違いのせいで『スパイ』などと愚弄してしまい大変申し訳ない。」
ユタロウたちは顔を見合わせると、気が抜けたように笑いあった。
「いやいや、頭を上げてください!元はと言えばこっちがうるさいって事が発端だし、、それじゃ両成敗って事にしましょうよ!シャオランさん」
「そう言ってもらえるとありがたい。」
なんとか場も治まり、これを機会にとシャオランやロドリコ、ついでにラスカと言った『英雄級』の強さを持つ彼らと新米のユタロウたちは時間いっぱいまで親睦を深め合った。
「来たな」
楽しい時間も長くは続かない。
ユタロウと楽しげに話すロドリコの表情が一変すると、広間の脇の扉が開いた。
『絶対的な強者感』
入ってきた彼らに纏うオーラはまさにそれだった。『六王衆』だ。
「長らく待たせたな。いきなりだが半分は消えてもらう」
その言葉を合図に意識が遠くなる。
気が付くと俺は前世であるはずの世界、暗く狭く暑苦しい押入れの中にいた。