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第二十四話 少し大人になりました。

べルルは久しぶりに来た王都エスターテールを満喫するどころか、その複雑な街の作りを恨んでさえいた。


「一体どこに行っちゃんたんですか、、うっぷ、、」


同じ道を何度も通り、同じ露天商に何度もある人物を見かけなかったか尋ねた。

陽も上り切った頃、中央区路地裏にて薬草売りの老婆に本日4回目となる質問をしてみるも、「しつこいっ!」と叱責され門前払いとなる。


べルルは数時間ぶりに立ち止まると、体調の悪さを思い出す。そして青ざめながらも意を決して小さな青い水晶を取り出し、そこに魔力を込めた。


「ヒック、、どうしたべルル!ヒック、、俺は今手が離せねぇんだよ!ヒック、、手短かに離せ!」


「学園長さぁーん!お仕事? カッコいい!」


ぼんやりと放光する水晶からは明らかに大人の飲み屋にいるサイゴーの声と、色っぽい女性の声が聞こえてきた。


(この人は昼間っから、、)


「・・・」


「すぐ戻るよハニー!チュッチュ、、ウホン!べルル!何黙ってやがる!ヒック、、俺は手が離せないって言ってるだろうが!」


「、、見失いました」


「あぁ? なんだって? 」


「ユタロウさんを見失いました!」


「、、ッ!バカヤロウ!!」


サイゴーが一喝する声が予想外の大きさでべルルは耳鳴りを起こしてしまう。


「今回の招集令状は『赤紙』だろうが!今度シャーザーの野郎に呼び出し喰らったら、うちは累積罰則で10万グルドだぞ!」


「でも累積ってサイゴーさんの分もかなり含まれてるんじゃ、、、」


サイゴーは一瞬口ごもるも、すぐに威勢を取り戻しべルルを恫喝しにかかる。


「そもそも学級委員長のお前がしっかりしてたら俺もユタロウも普通の学園長と学生やってられんだよ!」


「僕にあなたたち2人のお守りは無理ですよー!荷が重すぎます!」


「とにかく!まだ集合時間まで時間はある!ドブ川の底を這いつくばっても見つけ出せ!以上だ!」


理不尽にも程がある言葉を残して水晶はただの石ころに戻った。道を行く人々は可哀想な子を見るような目でべルルに視線を送る。


「あらべルルさんではないですか!」


白衣を身にまとった1人の少女がべルルに声を掛けた。



ー国立能力開発局第一研究所・所長室ー


ルルバス所長が定例会議があると言ってこの部屋を出てから、しばらく経った。

とにかくうるさいサイゴーさんと、お節介焼きなべルルから解放され、久しぶりに気持ちよく熟睡できた気がした。


今朝、見た目はファンシーだが、乗り心地が最悪の『夜行犬(やこういぬ)バス』で第四学園がある北都『スコサム』から王都まで5時間ほどかけて来たわけだが、その夜行犬が途中何度もマーキングするわ、メスの犬バスに飛びつくわで散々な旅路となった。


グロッキー状態のべルルは宿についた途端トイレにこもり嗚咽を繰り返すもんだから、うるさくて仕方がない。


僕は平穏に眠れる場所を求めて、この場所へ辿り着いたのだった。


決して嫌になり逃げたのでは無い。

まあ、招集がかかった時は多少駄々をこねたが、夜行犬バスに乗る頃には『魔王討伐軍高級選抜試験』とやらを受ける覚悟は決めていた。


「うーん。もう少し寝てみよう、、、」


あまりにも気持ちよく眠れるものだから

、少し欲張ってみようとするも、良いことは長くは続かないものだ。


「ユタロウさん!!」


勢いよく扉が開くと正面には青ざめた表情のべルルが立っていた。


「おはようべルル!、、って顔色悪いぞ? 大丈夫か? 」


「誰のせいですか!!」


べルルはユタロウを一喝すると、近くのソファーへ倒れるように座り込んだ。


「やっぱりここに居たのでありますか!相変わらず自由奔放な人何ですから、、誰に似たのやらです!」


ベルルの少し後ろには15歳にして第一能研の主任にまで出世したユイ・ジョモワールが立っていた。さすがは成長期。去年の能力査定依頼、約1年ぶりに会うユイは身長はあまり伸びていない物の、ある部分が驚異的な成長を遂げている。


「ふむふむ。ある意味俺のスキル以上にチートですよ、ユイくん」


「ちょ、、ちょっとどこ見てるんですか!、、うぅ」


ユイは恥ずかしそうにその部分を白衣で隠そうとするが、盛り上がりすぎたそれは隠しきれず、逆に卑猥な仕草となってしまう。


「ユタロウさん、、リーン王女に言いつけますよ、、」


「な、なぜここでリーンが出てくる!」


べルルのチクリと心に刺さる。

何故だろう。

今の自分の言動を(かえり)みて『リーン』と言う固有名詞を聞くと、途端に後ろめたさを感じてしまう。


「まあいいです。少し早いですが王城へ向かいましょう!、、ユタロウさんのトラブル引き寄せ体質は侮れません、、」


「まだ時間あるなら、あと少しだけ寝させて、、」


「ダメです!!さ、行きますよ」


「べルルのいけずー!」


半ば強制的にべルルに手を引かれ所長室を引きずり出されると、ユイに手を振り、そのまま止む終えず王城へと足を進める。


1人残されたユイはさっきまでユタロウが寝ていたソファーに飛び込み一度顔を埋めてみる。ハフハフと粗く呼吸して天井へ向き直る。


「リーン王女か、、強敵でありますね、、」


「、、、入ってもいい? 」


ユイは扉の方へ顔を向けると、会議を終えたグレゴール・ルルバス所長が自室でありながら入るのを躊躇(ためら)っていた。


「、、見ました?」


顔を赤らめたユイは、大きな目を潤ませながらルルバスに尋ねる。


「、、そうだね、、言わないから入っていいかな? 」


「うわーん!!所長のバカー!」


ユイはルルバスに罵声を飛ばしながら部屋を逃げるように出て行くと、ルルバスは急須でコール茶を淹れ一息つく。


「今日もここは平和ですねー」


ルルバスにとって合いも変わらない日常であった。


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