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第二十一話 王の覚悟。

リーンたちがサーボンティーを飲み終え、各自部屋へ帰ろうとして頃、会議はいよいよ本題へ突入した。進行役がトコナッツ王国の外交官からローランド王国の軍略担当大臣へと変わる。


「先日、トコナッツ王国、ガミュード諸島海域で起きた事件。通称『アルバートの不運』については勿論、皆さまご周知かと思います。」


「例の『ヘルトピア』で起きた海難事故ですか、、確か船員の一人が生き残ってて『魔王城を見た』と夜な夜な(うめ)いてるそうですな」


「そいつはもはや『廃人』だと聞いたぞ!」


「そもそも『ヘルトピア』では年間にして100件近くの事件・事故が報告されており、ほとんどが大型海獣によるものです。今回も島レベルに育った『大陸ガメ』の仕業ではないかと漁師たちは話していました」


「本当に魔王が復活してるのかも疑問ですぞ!ガハハ!」


「高名な西の魔女[アジャルータ・ウェンサム]様は5年も前に『新たな魔王が産声をあげた』と発表なさってたではないか!」


「そもそも、、、」


会話の波が徐々に大きくなり、うねり始める。『見たくない現実』が『受け入れたくない現実』が大人たちの声を大きくさせる。


「あーやめやめ!見苦しいぞトコナッツ側!!、、失礼しました。是非ローランド王国の見解をお聞きしたい」


しびれを切らしたサウザンドが場を制す。

前日、敗れはしたものの圧倒的な力を見せつけただけあって、それまで扱いずらかった高官たちも一瞬で黙りこくった。


「私が話そう」


それまで場を任せていた軍略担当大臣に変わりローランド国王自らが説明し出すとあって、場の空気は更に張り詰めた。


「まず共通認識として受け入れてほしい。『魔王』はすでに復活しておる!」


「っな、、、」


高官たちは沈黙する。

俯く者や天を仰ぐ者が数人。

魔人たちの活動範囲が広がっている事もあり、その事実については気付かない訳がなかった。ただ受け入れたくなかったのだ。


「もう一つ言うと、魔王城は『ヘルトピア』に間違いなく存在する。、、これは我が国の偵察部隊によって確認済みである」


俯いていた者はテーブルに顔が付きそうになり、天を仰いでいた者は椅子から転げ落ちそうになる。


「ふぅ、、そうですか」


サウザンドは一つ深呼吸を挟むと全てを受け入れる体制を整えた。


「我々はトコナッツ王国に世界連合軍へ加盟を要請する。そして『聖剣ズルフィカール』の保持者であるサウザンド王には現在確認されている『3名の勇者』の1人として最前線で戦って欲しい!」


「ななな、何を言っておられるのですローランド国王よ!一国の主人に、この世で1番危険な場所へ行けと言うのですか!いくらなんでもあんまりです!」


クリュムがローランド国王に対して意見するのは初めての事だった。勿論他の高官たちも難色を示す。会議を止めようと呼びかける者も現れた。


「タダでとは言っとらん!!」


「なにを用意して頂けると? 」


サウザンドもいつになく鋭い目線をローランド国王に向ける。


「サウザンド王が生還したあかつきには、、、我がローランド王国の『全て』を受け渡そうと思っておる!」


「「「え、、えぇええー」」」



一同がまるで前もって取り決めてたかのようにリアクションを取り声を上げた。


「これで世界が救えるなら安いと思うがのう?どうじゃサウちゃん?もう一度ワシの賭けに乗らんかね?」


「ハハ!おじちゃん最高だよ!勿論乗った!!」


国を代償にしたローランド国王の覚悟にクリュムを含め誰も反論できるはずが無かった。それに魔王を倒せた平和な世界とアルフヘイム最大規模の王国が同時に手に入るとなれば、トコナッツ王国は世界的な『帝国』になる。政治的にも、むしろ乗らない手はなかった。


「ロロロ、ローランド国王様、、本気ですか!『全て』と言うのは資産も国土も全部!!と言う解釈でよよよ、よろしいのでしょうか!? 」


「もーうるさいのう、、言葉の通りじゃよ!『全て』は『全て』じゃ!ワシはこう言う冗談が嫌いだと言うとろうに!ほれほれ契約書じゃ。こちらの調停印はもう押してある!」


ローランド国王が雑に取り出した羊皮紙には確かに先ほどの内容が書かれ調停印が押してあった。トコナッツ史上最も重要な一枚だ。クリュムは内容を確認するとすぐに懐へ羊皮紙を隠した。


「慌てん坊じゃのう!ホッホ!」


「あのう、、よろしいでしょうか?」


一同がある意味浮かれている中、トコナッツ王国軍大将のガルムンドが挙手をし、ローランド王国側へ質疑する構えを取っている。


「この様子だと我々の世界連合軍加盟は決定的だと思いますが、、他の戦力は? 西の王国? まさか北の王国もついているのですか?」


「ふむ、答えよう。西の[サーファーズ王国]とは既に調停を結んでおる。『ある男』を軍指南役に受け渡すと言う条件は痛かったがのう、、北の[ナーマハゲン王国]は断られたわい!」


「ふふ、、でしょうな。むしろ[ナーマハゲン]は監視対象になるでしょう、、」


ガルムンドは思う所があるのか、腕を組み、眉間にしわを寄せるも、横でサウザンドは嬉々と笑っている。


「まあまあ、[ナーマハゲン]はほっときましょう!それより西が既に付いてるとは。って事は運が良ければ『銀翼の騎士』とやれる、、いやいや、お会いできるのですね!それは楽しみだ!ハハ!」


内に秘めておいて欲しい闘志が溢れ出るサウザンドに代わりガルムンドが話を続ける。


「そうですね。[ナーマハゲン]の話は今は置いておきましょう。それで我々はこの後どう動けばよいでしょうか? 」


ローランド国王は立派に蓄えたあご髭を指で撫でると、少し申し訳無さそうに話し出した。


「トコナッツ王国側には悪いが、、早急に『最強の戦士10名』を選抜してもらい、3ヶ月後に[エスターテール]で行う軍略会議に出席して頂きたい。おそらく次に国へ帰れるのが魔王討伐後になるじゃろう」


「承知しました!!なんかワクワクするなーガルムンド!」


サウザンドが『考えるまでも無い』と言う風な勢いで即答する。


「ここで武勲を上げなければ一生の恥ですな!」


ガルムンドも続けざまに返答をして見せる。


「揃いも揃って格闘バカなのですから、、」


クリュムの憂いも届かぬまま会議は終了した。

軽い晩餐会も早々に終わり、次の日の早朝にはローランド王国一行はトコナッツ王国を出発するのであった。


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