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第十六話 リーン結婚する?!

晩餐会は大いに盛り上がった。

100人を超えるローランド王国旅団一行を余すことなくもてなすトコナッツ王国の給仕たちの完璧な仕事ぶりは影のMVPと言っていいだろう。


「なんておいひーんれすの!『砂漠ワイン』!じゃんじゃん持って来なしゃーい!」


兼ねてから晩餐会を心待ちににしていたエリスは、その食欲もさることながら、酒の量もとんでもない。エリスの周りには彼女に『飲み比べ』を挑んだ屈強なトコナッツ王国の兵士長達が、まるで干からびたカエルの様に何人も倒れ込んでいる。


「こ、これが天下無双と言われる『六王衆』の実力か」、、、バタ。


「なによう、、もう終わりれすの?、、あー!そこのあなた!一緒に呑みましょう!」


「はい!えへへ、、」


男たちは潰されるとわかっていながら誘いを断らないのは、エリスがあまりにも妖艶で美しいからに他ならない。エリスは気付いてないが、裏では順番待ちの状態だった。


「けっ!何よ何よ!、、こんな事ならあいつも連れて来れば良かったわ、、」


「あいつって誰だい?」


上座に一人ポツンと座らされていたリーンの横には、いつのまにかサウザンドが座っていた。

リーンは予期せぬ人物の登場に「ぶぶっ」と水を吹き出す。


「だ、誰だっていいでしょ!」


「別にそんなに動揺しなくても、、」


リーンの吹き出した水をもろに受け止めたサウザンドの上半身は、ずぶ濡れになっていた。

遠くの方ではローランド国王が半裸で『どじょうすくい』の様な踊りを披露し、爆笑をさらっている。


「あらーさうしゃんと王さまー!だめよー!王女は『お・と・し・ご・ろ』なんれすからー」


先ほどまで男たちと飲んでいたはずのエリスは、エサの匂いを嗅ぎつけて来た小動物のように接近し、後ろからサウザンドに抱きついた。

呂律もうまく回っておらず、彼女の吐く息を嗅いだだけで、こっちまで酔っ払ってしまいそうだった。


「もう!酔っ払いはあっちへ行って!」


リーンが指差す方にはエリスを『姉御』と慕い呼ぶ屈強な男たちが彼女の帰りを手招きしながら待っていた。


「あらー!しょうがない子たちなんらからー、、じゃあねリーン。ユタロウを悲しませるようなおイタは、、一度くらいなら隠してあげるー!オホホー」


そう言い残すと再び定位置へと大歓声を中戻って行った。


「あいつー、、覚えてなさい!」


リーンは少し顔を赤くして怒っている。

それが怒りからなのか、恥ずかしさからなのか、サウザンドには後者のように思えた。


「まさかリーンにそんな男ができたなんてな!ハハ!」


「だからそんなんじゃないわよー!」


「ユタロウって言ったか?」


「まあ、そうだけど」


「ハハ!」


サウザンドは一度、無邪気に笑って見せると、一転。獲物を見つけた肉食獣の表情になり、リーンを強く見つめる。


「なあ、俺と『そいつ』どっちが強い?」


「あんたよ」


リーンは即答する。

サウザンドはまさに拍子抜けだった。


「なーんだ。リーンが惚れるくらいだから怪物みたいな奴なのかと思ったよ」


サウザンドの表情から途端に殺気がなくなり、遊び相手に逃げられた子供のようにわかりやすく拗ね出す。


「純粋な戦闘力ならね。良くてうちの中級兵士長レベル。そんなのが今の若獅子会議『第3席』なんだから驚きよ!」


「はぁー?冗談、、君が去年の『第4席』だったって言う集団だろ?今年は余程の人員不足なのかい?」


「人員はむしろ去年より豊富よ」


サウザンドの表情はまたしても一変するが、それは明らかに困惑していると言うものだった。



ー[若獅子会議]ー


アカデミー生、上位10名からなる学園内における意思決定機関の一つであり、王国上位戦力の一つ。第10席の実力でさえ魔人に単騎で挑めるほどと言われており、歴代の『六王衆』は全てこの会議出身者である。言わば、『六王衆』になり得る可能性を持つ者のみが入ることの許されるエリート中のエリート集団だ。



「ちなみにそこで談笑してる青い髪の子が今年の第7席[クポル・アインズ]。氷系の固有スキルを[万物氷華]の使い手よ」


「来てるのか!若獅子会議っ!」


サウザンドの強者に対する執着心には異常なものがある。自らが強さを図る物差しが彼には今まで無かったのだ。

結局、王族と本気でやり合おうとする者がいない事はリーンにも身に覚えがある。

アカデミー入学以前の彼女もそうであった。


「ええ。後学の為にこう言う時は何人か選抜して付き添ってもらうの。今回は二人よ」


「どれどれ!もう一人は?」


なりふり構わず辺りをキョロキョロと見回すサウザンドは子供が宝探しをするかのように純粋だった。そんな彼の姿が愛らしいと思いそうになると、脳裏にエリスの言葉が蘇り、リーンは気持ちを鎮めにかかった。


「ほ、ほら!あそこよ!長い黒髮の子。[タケル・リクドウ]遠い東の島国にルーツを持ってるらしいわ。今年の[第1席]よ」


「いいねー!あいつ絶対強いだろ!」


「入学年から会議入りしてるバケモノよ。去年の段階で[第2席]で私より上、、はあーあ。やんなっちゃうわよ」


リーンが少し目線を下に向け、再びサウザンドに向き直ると彼の姿はそこに無かった。


少し離れた丸テーブルの前で両雄は既に対峙していた。


「俺の名前は[サウザンド・ハン・アラジーン]。[タケル・リクドウ]、、俺と戦え」


「えーっと、、、喜んでお受け致します、、かな?」


二人が交わしたのはこの一言だけだった。

両王国の兵士達は「おおー」と驚きが混じったような歓声を上げ一層、宴会は盛り上がりを見せる。


ただ一人、小太りの男が血相を変えてサウザンドに飛びかかった。


「殿下!!ローランド国王は遊びに来たわけでは無いんですぞ!明日は両国の今後を左右する大事な会合を行う予定です!」


「これは遊びじゃ無いさ」


「ふんぬー!!」


「クリュムよ。良いではないか!試合は明日正午じゃ!ホッホ!これは楽しみだ、、サウちゃん対、我が王国が誇る『新世代最強』か。しかしただの試合じゃ面白味に欠けるのう、、そうじゃ!」


リーンに悪寒が走る。

この人は昔から時々タガが外れたように可笑しな事を言い出す癖があるのだ。


「サウザンド君!もし彼に勝つ事が出来たなら、我が娘リーンを正式に妻とするがよい!」


「「ッはあ!?」」


「なんだ!もう息もぴったりではないか!」


突拍子すぎる展開に、当事者たちが驚くだけでは無く、会場全体が騒つく。


「ちょ、ちょっと待ってパパ!いくらなんでも突然過ぎるわ!サウザンドも言ってやってよ!」


サウザンドは一歩前に出る。


「それは『本気』なのですねローランド国王」


「私はこう言う冗談は好かん」


「ハハ!」


一つ高笑いを挟むとローランド国王に向かったまま胸に手をつき頭を少し下げた。


「その提案喜んでお受けします。リーン王女を我が妻にしてみせます」


「ブブッ!」


リーンは思わず吹き出してしまう。

これは宴の席とは言えど一国の王同士の取り決め。覆せる者などいないのだ。


「嘘でしょ、、」


「いいじゃないリーン。面白そうですわ」


「エリスってば。他人事だと思って、、」


そう言ってエリスの顔を見ると、意外にも真剣な表情を見せていた。


「あなたは王女である前に、今は私の最も優秀な弟子。まだまだ教えたい事は山ほどありますわ。今落ち着かれてしまうのは私にとっても不本意。いや、不愉快ですのよ」


「エリス、、」


エリスはいつも掴み所のない女性だったが、この言葉に嘘がない事は確かめるまでも無くわかる。それに彼女は私の為に少し憤怒していた。


「[タケル・リクドウ]。もはや私たちと対等な実力を持つあなたが負けるとは思いませんが、そのような事態になったら許しませんですわよ」


「ハハハ。それは『嘆願』ですか?それとも『命令』ですか?」


「『命令』よ!」


「承知しました。」


若獅子会議[第1席]は静かに頷くと、そのまま両国王に会釈をし晩餐会をあとにする。

去り際のその背中は若輩兵士のそれでは無く、まるで『六王衆』の様な絶対的強者の雰囲気を醸し出していた。


愉快な晩餐会は一転、明日の試合の話題で持ちきりとなるのであった。

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