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第十五話 あの頃のように。

ローランド国王一行は予定通り夕刻前にアラビアム宮殿に到着した。

トコナッツ王国とローランド王国は古くからの友好国という事もあり、国民たちは沿道に群がり、宮殿への道すがらはパレードの様な盛り上がりを見せた。


「これはこれは遠い所をわざわざ!」


「出迎え感謝する。元気そうだの。クリュムよ」


「クリュム!疲れたわ!早く部屋へ案内しなさい!」


国王の慈悲深さとは正反対の言葉をかける少女が一人。この旅にはリーンも帯同していた。

17歳になっていたリーンは美しさとともに「ドSっぷり』にも磨きがかかっている。


「これリーンよ、少しは人を慈しみなさい。お前は昔っから、、」


「、、ふん!」


(ママー!娘が反抗期じゃー!!)


クリュムは二人の様子を見て、他人事では無いような気がしてならなかった。なんとか間を取り持とうと、額の汗を拭きながら右往左往して見せる。


「大丈夫でございます!リーン王女の事はこんなに小さい頃から知っていますので、今更『世間知らず』だなんて思いません!」


「誰が『世間知らずのワガママ王女』ですって!」


「えー!!わしはそこまで言ってませんぞー!!」


「ハハ!随分と賑やかだね!」


正面の大階段から降りてきたのは、第89代国王[サウザンド・ハン・アラジーン]だった。

王家伝統の煌びやかで豪勢な衣装を見に纏う姿は、先ほどまでの『拳闘少年』とはまるで別人のようだ。


「ローランド国王。ようこそトコナッツ王国へ。長旅ゆえ、さぞお疲れでしょう。晩餐までは時間がありますので、それまでこの宮殿を我が家だと思っておくつろぎください。」


「おー。これはサウザンド国王!この度は歓迎していただき感謝致しますぞ。相変わらず良い国ですな!」


二人の王はガッチリと握手を交わす。

ローランド国王はもはや『ベテラン』と言って良いほどキャリアの長い国王だが、驚くのは、それに全く引けを取らない『新米国王』サウザンドの風格だ。


(つい最近まで泥塗れで遊ぶような少年がこうも化けるか、、)


「ローランド国王。早速で申し訳ないですが、私の願いを聞いてもらえるでしょうか、、」


「何ですかな?」


「私に『かしこまる』のをやめていただきたい。以前のように接してください、、『ローランドおじちゃん』!」


国王に向かって『おじちゃん』と発言するサウザンドにクリュムは血相を変え駆け寄った。


「『おじちゃん』ですとー!ぬわーにお言っちゃってるのかなー!頭でも打ったのかなー!」


クリュムの近さと凄まじい圧に、サウザンドの上体はかなり後ろ側へと美しい放物線を描いているかのようだった。


「ホッホ!クリュム良いのだ。わしもどこかむず痒かったのだよ、、『サウちゃん』よ!聞き入れたぞ!」


「感謝いたします!そうとなったら前みたいに晩餐まで生け簀で釣りでもどうですか?」


「サウちゃんや!水臭いのー。敬語は無しじゃよ!ホッホ」


「わかりまし、、じゃなくて、わかった!さぁおじちゃん!早く行こう!」


ローランド国王の手をぐいぐい引っ張るサウザンドの視界がリーンを捉える。


「あ!リーンも来てたのか!一緒に行かないか?」


「私はパス。早く横になりたいわ」


「相変わらずつまんない奴!ハハ!」


「もー!とっとと行きなさいよ!」


サウザンドは先ほどの凛とした表情から打って変わって子供のようにはしゃいで見せた。


「国王がまるで親戚のおじさん扱いですわね。」


今回、護衛として帯同する『六王衆』が一人“魔神”エリスはこの光景に違和感を覚える。

無理もない。自国の王がただの『おじちゃん』に成り下がっているのだから。


「ああ、あれは気にしないで。私たちが子供の頃の話よ、、サウザンドったら外交に来ていたパパをそれこそ『親戚のおじさん』だと思ったらしくて、、パパも訂正しないで遊んでたものだから、すっかり懐いちゃって。以降関係はあんな感じなのよ」


二人の国王が、楽しげに騒ぎながら場を離れると、一瞬気まずさにも似た静寂が訪れる。

ハッと我に返ったクリュムは、大きなため息を一つつくと、まるで魂の抜け殻のような雰囲気で残された一行に向き直した。


「、、ささ。お待たせ致しました。こちらへどうぞー。」


「やぁねー。不憫ですわー。」


エリスはクリュムの姿を『捨てられた子豚さん』と揶揄したが、リーンもわからないでも無いと浅く息をつくのだった。


広い王宮をしばらく歩かされ客間に着く頃にはそこらじゅうに料理の良い香りが漂い出していた。既に晩餐会の準備が整おうとしている事は容易に想像できる。機を察し、急いでベッドへ飛び込むリーンだったが5分と経たずに、王宮の召使いが現れたのには流石に笑うしかなかった。


「あと少しで良いから休ませてー、、」


「エンチャント!マナリタイム」


エリスがそう唱えると一瞬リーンの体が発光し元に戻る。


「これでしばらくの間自動でマナが回復し続けるわ。もう歩くのも寝るのも一緒ですわよ。さぁ行きましょう!食べますわよー!」


「確かに体は軽くなったけど、、なんか腑に落ちないわね、エンチャントって」


“魔神”エリスの放つエンチャント魔法はとりわけ強力だった。普通この類の魔法と言うのは、ごく微量の回復量が数分続くだけなので『気休め』と言い切る魔法使いは多い。

しかしエリスの場合は回復量も持続性も桁違い。もしもここが戦場ならノーガードで敵兵の中心に飛び込んでも死なないだろう。


「もし『連合軍』が実現して魔王討伐に行くなら、あなたは間違いなく当確よ」


「あら、光栄ですわ。あなたの『彼』も一緒に行けると良いですわね」


「あいつはまだまだよ、、って!彼氏じゃない!!」


「冗談ですわよー!オホホ」


無駄話が止まらない二人は、いよいよ召使いに急かされ、晩餐会へと向かうのであった。


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