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第十話 ゾウリムシはタイトルを回収しました。

「それで?やっぱりその[サプライズ]って言うヘンテコなスキルのせいなの?」


「このステートログから考察いたしますと、、」


僕たちは再び[第一能研]の建物内にいた。

アカデミー入学の件は一旦置いといて、『村人が聖剣抜けちゃった問題』は3人の判断だけでは、信憑性にかける。ゴトーの提案で専門家の意見を聞く事にしたのだ。


特別応接室には僕、ゴトー、リーンの3人の他に所長のグレゴール・ルルバスと僕のステータスを判定したユイ・ジョモワールという若い女性の研究者も同席している。


「そもそもこれあってるんでしょうね?Sランクの固有スキルを持った村人なんか聞いたことが無いわ!


リーンは僕のステートログをあたかも自分の私物のように扱い、雑に机の上に叩き置いた。


「ムキー!私の判定は正確無比でありますよー!」


「恐れ多くも王女様。ユイ君はアカデミー在学中に私自身が嘆願して引き抜いた逸材であります。当研究所の中でも指折りの判定師である事に疑いはありません、、」


[ユイ・ジョモワール]

一昨年の王国騎士アカデミー・魔導研究科において歴代最高の成績を叩き出した超天才。

若干9歳にしてアカデミーへ入学。2年次には既に第一能研に籍を置き、3年次に発表した「潜在的能力値と観測的成長値の転変」という論文は研究者たちの新たなバイブルとして急激に広まった。

[固有スキル:超越した博学:S]の持ち主である。


「コホン!私が思うにユタロウさんが聖剣を抜いてしまった事と、[固有スキル:サプライズ:S]は間違いなく関係しているであります!」


ユイは力強く断言し、他意の介入を防ぐよう続けざまに捲し立てた。


「そもそも[サプライズ]というスキルでありますが、[人類史]上、確認されたのが今回が初めてで、私の知る限りどの文献にも載っていません。近しいものに30年前、王国出身の手品師が持っていた[見破れぬ嘘]という固有スキルがありますが、これは根本が[嘘]なので、[サプライズ]とはその特性が違います。

スキルの名前と言うのは通常、そのスキルの特性を分かりやすく具体的に示す物です。

[サプライズ]は抽象的なようですが、実はかなり具体的なネーミングですよね?

[驚き]、、、それが善か悪かは別として、今回その対象がゴトー様とリーン王女だったという訳です。今までの話を聞く限り[サプライズ]の発動条件には、何かを期待する他人の介入が必要なのだと推測出来ます。

キヌ村で暮らしていて何の兆候も感じなかったのはあまり他人と接していなかったせいでは無いでしょうか?

あ、言っておきますが、ステータスが思っていたより高かったと言うのは単純に山で歩いていたからですよ!もし[サプライズ]が絡んでいるならこんな微妙な上がり方はしません。何たってS級ですから。

S級スキルというのは人智を超越しているからS級なのです。『抜けないはずの物が抜ける』と言うのは[サプライズ:S]ならむしろ容易いのかも知れません。今回は抜いてしまった物に偶然的に付加価値があっただけなのです、、お水を下さい!!」


ユイの口調に圧倒され、3人は返す言葉も見つからなかった。

彼女の言っている事が、真実に限りなく近いんだろうと言う妙な説得力があったからだ。


「ま、まぁ、わかったわ!でも一つ確認させて頂戴。[聖剣]を抜いてしまった事実はもうどうしようもないけど、ユタロウは[勇者]なの?魔王を倒せる力があるの?」


「それは、、、」


先程まであんなに弁の立っていたユイが口ごもる。

この世界にとって『魔王討伐』と言うのは至上命題であり、半端な意見はできないようだ。


「歴代の勇者様には最低でも二つの共通点があります。聖剣を所持している事と、[勇者]と名の付くスキルを持っている事です。聖剣の所持に関しては結果的にクリアしちゃいましたが、、」


再び口ごもるユイ。


「もう!はっきり言いなさいよ!あんた実は『バカ』なの?」


ユイの雰囲気がピリッと変わる。

どうやら『バカ』という言葉に反応したらしい。まぁ自分ですらこの王女に『バカ』と言われるのは普段から耐え難い仕打ちな訳だから、稀代の天才であるユイにとってはもはや拷問レベルなのかもしれない。


「むうう、、、!そこまで言うのならはっきり言ってあげますよ!ユタロウさんが勇者になって魔王を倒せるかどうかですって?そんな可能性これっぽっちもありませんよ!ミジンコ以下ですよ!ユタロウさんなんかもうミジンコ以下のゾウリムシですよー!うわーん!!」


(そこまで言うかー!!)


思いの丈を泣き叫ぶように言い放つと、ユイはそのまま逃げ出すように部屋を飛び出してしまった。


「何もそこまで言う事ないじゃない、、ねぇ」


「リーン様、、後でちゃんと謝りに行くのですぞ、、」


「何でよー!」


「年端もいかぬ女児を泣かせておいて、、嘆かわしい、、」


「わかったわよ、、」


リーンは珍しくしょげている。

その横で、『ゾウリムシ』の烙印を押された僕も分かりやすく傷付いているのであった。


「「はぁあー、、」」


「揃いも揃って、、嘆かわしい、、」


見兼ねた所長のグレゴールは、必死に汗を拭きながらフォローに入る。


「すみません、、王女様、ゴトー様。それにユタロウ君も。彼女は確かに優秀なのですが、中身はまだ13歳の世間知らずの少女なのです、、それと、これは私の見解なんですが聞いて頂けますか?」


「「どうぞ〜」」


2人は息もぴったりに、魂が抜けたような返事を返す。ゴトーは呆れたように大きくため息を吐きおでこの辺りをを手で抑えた。


「今のユタロウ君は[聖剣]という強大な武器をただただ触るだけの赤子のようなものです。魔王が大人の兵士だとするなら当然勝てません。ただし我々人間というのは成長する生き物。ユタロウ君が鍛え、学び、成長して行く事でもしくはその切っ先が魔王の脅威となる事は可能なのではないでしょうか。少なくとも現段階で[聖剣エクスカリバー]にはその準備があります!、、[勇者]の素質を持たない者が魔王を倒すとすれば前代未聞ですが、、」


要するに、僕はだーれにも期待されていないのにも関わらず「サプライズ」と言う文字通りのびっくり能力で聖剣を抜いてしまった。

本来[勇者の器]を持つリーンが抜くはずだった聖剣を。


世界規模で運の悪い事に、それは『七星剣』の中でも「最強」と呼び声高い[エクスカリバー]だった。


ただの村人が[聖剣エクスカリバー]を所持している、、、


これがゲームだったらただのクソゲー&ムリゲーでは無いか。


僕の想いはただ一つだ。



<<聖剣を抜いたのが僕でごめんなさい!>>



救いようのない現状に放心状態のリーンとユタロウとは逆に闘志をたぎらせる男が1人。


「うおおお!!!」


王国軍指揮官。“軍神ゴトー“その人だった。


「ユタロウ殿!!もう後へは引けませんぞ!私が直々に稽古を、、、と言いたい所ですが、こう見えて忙しい身ゆえ。そこで決めましたぞ!」


「、、なんでしょー、(嫌な予感しかしないんですけど)」


「我が一番弟子にして現王国の最高戦力『六王衆』が1人”巨神“サイゴーが長を務める[第4王国騎士アカデミー]へ行くのです!そこでみっちりと鍛えて貰いなさい!」


一旦置いといて、そのまま流れて欲しかった話が息を吹き返した。


「ちょっと待った!行くなら私と同じ[第1アカデミー]にしなさいよ!第1の学園長だって『六王衆』よ!」


「エリスはステータス、スキル、戦術。どれを取っても根っからの魔法使いじゃからのー」


「強くなるなら第1って相場は決まってるわ!第4なんて出来損ないの集まりって噂じゃない!」


「そんな噂デタラメです!絶対に我が弟子サイゴーのいる第4の方が合っていますぞ!」


「バカねー!優秀な人材の揃う第1に来た方が絶対いいわよ!」


「絶対、第4じゃ!」


「絶対、第1よ!」



僕のいない所でどんどん話が進んでいるような気がする。


「あのー、、」


「ユタロウ何よ?!」


「何ですかユタロウ殿?!」


「僕の意見は聞かなくていいのかなーっと思いまして」


鼻息を荒くしながら2人はユタロウに顔お向けると、ほぼ同タイミングで一言を言い放った。


「「関係ない奴(方)は黙ってなさい(いてください)!!」


「嘘だろおおお!!!」


この調子で1時間続いた討論の末、僕は結局『第4王国騎士アカデミー』に入学する事になっていた。


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