癒しのチェロと華奈の涙
光に見つめられたサラは、顔を赤くした。
そして、その目の光が強くなり、不思議なことを言いだした。
「光君なら、私のチェロわかるよね」
すると、光の目が輝いた。
光もまた、不思議なことを口にする。
「癒しのチェロだね、これはありがたい」
「そのチェロの音が、僕の身体に響くと、疲れが消え去り、力が湧いてくる」
光の言葉通り、光はいつもの疲れ顔ではない、むしろ生気にあふれている。
光とサラが、そんな話をしていると、他の巫女も寄って来た。
春奈がまず一言。
「うん、普通のチェロではないと思ったけれど・・・もしかして?」
サラも、春奈の心を読んだ。
「はい、春奈さん、アポロの癒しの神力をいただいてきました」
と、ニッコリと答える。
キャサリンもアポロに反応。
「さすが、アルテミス姉神とアポロ弟神の関係ですね、アポロ神もアルテミス女神が日本に行くということで、何か助力をしたかったのかな」
キャサリンは、納得している様子。
春麗は笑顔。
「どんな理由にしても、光君の状態がよくなれば、大歓迎」
「私も、もっと努力すればいいだけのこと」
由紀は、まだ驚きを隠せない。
「今までは、一曲終わればフラフラ、いろんな栄養補給されて、やっとコンサートを終えたのに、すっごいなあ・・・」
華奈は、また涙顔で下を向く。
「うー・・・またしても、格差見せつけられた、私、どうしたらいいの?」
「こんな、すっごいお姉さんばかりで、ますます光さんが遠くに行ってしまう」
さて、ステージの上で、光と巫女たちが、そんな話をしていると、ソフィーが戻って来た。
そして、まず光に厳しめの顔。
「光君、あの高村って元官僚の役所で使っていたPCのファイルと在職時代の全てのメール履歴、個人のスマホもPCは没収」
「現在、厳しく尋問中」
「全てのカタがつくまでは、釈放しない」
光も厳しい顔でソフィーに頷く。
「解明が進まないようだったら、あの力を使って欲しい」
「何しろ、一瞬で世界秩序だって、崩壊しかねない」
ソフィーは、光の言葉に深く頷き、今度はサラに声をかけた。
「サラ、ありがとう、それで少しお願いがあるの」
「そのアポロの癒しの力を増やしたいの」
サラも、すぐにソフィーの意図を読んだらしい。
「さすが、大天使ガブリエル様の巫女ですね」と、ニッコリと笑う。
そして、姿勢を正し、目を輝かせる。
「心配ありません、このチェロの音を聞いた人、身体に響いた人や楽器に、その癒しの力が、伝わります」
「ですから、今はここにいる全ての人と楽器に、アポロの癒しの力が加わっているのです」
光は、その言葉を聞いて、またニッコリ。
「そうなると、ますます演奏が楽しくなる」
「聞けば聞くほど、力が湧いてくるなんて、こんなに素晴らしいことはない」
「これで、思いっきりベートーヴェンが振れる」
そんな光に、さっと華奈が近寄った。
そして光に真顔で質問。
「ねえ、光さん、私も上手になるの?アポロの力で?私、下手だよ、悔しいくらい、すっごく格差感じている」
光は、やさしい顔。
そっと、華奈の手を握った。
「大丈夫、華奈ちゃん、信じていい、必ず上手になるし、僕も華奈ちゃんとずっと演奏したいの」
華奈は、その言葉で、大泣きになっている。