光とサラのデュオ 春奈の不安
光とサラにより、いきなり始まってしまった「シューベルト、アルペジョーネ・ソナタ」に、祥子、校長、春奈、そして音楽部と合唱部は、完全に魅了されてしまった。
祥子
「うわ、光君のピアノも上手、サラのチェロも音がきれいで深い」
校長
「アルペジョーネ・ソナタか、まさに名曲だなあ、聞き惚れるってこんな感じかなあ」
春奈
「二人の息がピッタリ、何の練習もしないで初見で、どうしてここまで?」
演奏が進むにつれて、音楽部と合唱部からは
「すっごいなあ、あの音のニュアンスの深さ」
「サラちゃんって、最初はキャサリンとか春麗の輝きで、わからなかったけれど、実はすごいね、じっと見ていると吸い込まれそうなくらい魅力ある」
「とにかく、落ちついていて何でも安心して任せられるタイプって感じ」
「それでいて、一旦決めると、グイグイ引っ張られる」
「お嫁さんにするには、いいなあ」
など、様々な、称賛の声がしきりになってきた。
さて、「自称お嫁さん候補」たちは、また様々。
華奈
「またしても実力格差巫女?はぁ・・・」
と、涙目で下を向く。
由紀
「うーーー・・・どっしり安心系では、私と同じタイプかあ・・・でも、体格で負ける・・・それに、様々深みがあるなあ、さすがアルテミスかあ・・・」
と、不安が強くなる。
キャサリンも少し焦っている。
「昨日のカリフォルニア料理で得点を稼いだけれど、これで並ばれてしまった」
「私はトランペットか・・・なかなか深みは出せないから、輝きとキレで勝負するしかないなあ」
春麗は、珍しく厳しい顔になっている。
「うーん・・・わが中国の歴史にも匹敵する深い歴史を背負ったアルテミスの巫女、味方としては安心、敵に回せば、かろうじて共倒れだなあ」
「フルートをもう少し磨こう、なんとかフルート・ソナタで挽回だ」
さて、光とサラ以外が、様々な思いを巡らしていると、演奏が終わった。
光が、ニッコリと立ち上がると、サラも満面の笑み。
光は、ニッコリ顔のまま
「サラちゃん、すごいね、僕もここまでシューベルトって演奏したことなかったけれど、久々に面白かった」
サラも満面の笑み
「うん、光君の最初のテンポとニュアンスが、素晴らしくて、ノリノリでチェロを弾けた、こんなの生まれて初めて」
光は、話を続けた。
「またいつか、他の曲もいいね」
サラは、ますますうれしそうな顔。
「えへへ、これで生きる喜びがまた増えました」
光とサラが、そんな話をしていると、ステージに春奈がのぼってきた。
そして光に
「ねえ、光君、第九の初見全部振って、またサラちゃんと一曲だよ」
「身体は大丈夫なの?倒れそうじゃないの?」
春奈としては、「どうせ光君のことだ、二曲なんて絶対無理、必ずあと少しすれば、コテンと倒れる」と判断しているようだ。
すると光は、何も表情を変えない。
それどころか、ますますニッコリ。
「うん、去年まではそうだったんだけど、今は力があふれている」
「不思議なんだ、自分でも」
と言ってサラの顔を見ている。