サラのアピール開始
第九の初見演奏と、「運命」をコンサートのプログラムに加えることを決めて、練習は終わった。
光は、ステージを降りて、まず音楽部顧問の祥子と、校長の前に立った。
光
「祥子先生、突然、決めてしまって、申し訳ありません」
やはり、光としては、特に顧問の祥子先生には、頭を下げる。
ただ、祥子は、にっこりと笑い、首を横に振る。
「いや、あくまでも光君の提案なので、全員が賛成すれば問題ない」
「というよりは、運命も聞いてみたい」
校長も、同感の様子。
「いいさ、ビシッとベートーヴェン・プログラムも」
「背筋が伸びると思うよ」
光は、それでホッとした様子。
「後は、練習プログラムの組み方とかですね」
祥子も頷く。
「確かに第九の仕上がりは、初見とは思えない程よかった、それはみんながよく知っている曲だからということもある」
「その意味でいえば、運命も負けず劣らず、それほど仕上がるのに時間はかからないかもしれない」
さて、光たちが、そんなコンサートについて話をしていると、サラが歩いて来た。
そして、祥子と校長に頭を下げて、光に声をかける。
「ねえ、光君、少しお願いがあるんだけど」
光がサラの顔を見ると、サラはいきなり光の腕を取る。
「ねえ、光君、ピアノ弾いて欲しいの」
どうやら、サラのお願いは、光のピアノだった。
光は、いつものキョトン顔が復活した。
少なくとも第九を振っていた時とか「運命」の話をしていた時の「真面目顔」ではない。
光は、サラの意図がわからない。
「えっと・・・ピアノ?」
「今?何を弾くの?」
そう思って、サラに聞くけれど、サラは何も言葉では答えない。
「いいから、さっさと!光君」
とうとう、光の腕をグッと組み、ピアノに向かって歩き出す。
しかし、何しろ、サラのいきなりの行動なので、音楽部員も合唱部員も、あっけに取られるしかない。
また、他の候補者巫女は、あ然とするもの、ムッとするもの、様々な状態。
春奈
「え・・・何?光君・・・サラも意味不明」
由紀
「えーーーー?どうして?」
華奈
「これ!ヤバイ!でも、どうしたらいいの?」
キャサリン
「うーん・・・先を越された・・・デュオで関係を深める方法に気がつかなった」
春麗
「何しろ、競争相手が多いなあ、サラの瞬発力は全く油断が出来ない」
さて、ピアノの前まで光を引きずったサラがようやく目的を話す。
「あのさ、少しベートーヴェンで疲れたから、気晴らししたいの」
と、そのまま自分の席からチェロと椅子を持ってきた。
そして、サラは、未だキョトン顔の光に、楽譜を手渡す。
光が、その楽譜を見ると「シューベルト、アルペジョーネ・ソナタ」。
すると、そのキョトン顔は、途端にうれしそうな顔に変化した。
「わ!やってみたかった!サラ、ありがとう!」
サラは、そんな光にニッコリ。
そして目で光に合図。
光は、少しゆっくり目に、「シューベルト、アルペジョーネ・ソナタ」の前奏を弾きはじめた。