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第九第四楽章

第四楽章が始まった。

第三楽章とは異なる激しい響きで、音楽室全体が振動する。


由紀の身体全体も震えた。

「すっごい!キャサリンのトランペットがキラキラしている!」

「華やかで力強いなあ、これが第九の第四楽章か!」

「それに、光君も目がすごく輝いているし」

「指揮も音楽も、すごくダイナミック」


由紀は、周囲の合唱部の面々を横目で見る。

「みんなも、姿勢がピンとしている」

「やる気満々って感じ」

「そうだよね、こんな超名曲、子供のころから憧れて何度も聞いて来た名曲だもの、気合も乗る」

それを感じて、由紀は再び光を見る。


すると、一瞬、光と目が合った。

由紀は、また身体が震えた。

「うわ!すっごい強い目だ、光君」

「いつもの眠たそうなトロンとした目とは全然違う」

「そうか、気合入れてって、言ってくれているのかな」

由紀は、そう感じた瞬間、身体が熱くなった。

「うん、やる、絶対ベストで歌う」

「もう、気後れとか何とかって、そんなこと言っていられない」

由紀の目の輝きも、強くなった。


由紀が感じた通り、光の指揮は、ますますダイナミック。

それでいて、音を抑えるべきところはしっかり抑え、響かせるところは目一杯響かせる。

また、細かなフレーズも、微妙な「間」を作り、しっかりと歌わせる。


第九のメインテーマが、はじまりだした。

最初は、低音楽器の極めて小さい、まるでつぶやくかのような感じ。

それが、木管楽器のアンサンブルとなり、うっとりとするような美しさに変わる。

それが、ヴァイオリンが加わり、しなやかさと、しっとりとした華やかさが加えられていく。

キャサリンのトランペットがメインテーマを奏でるころには、まるで祝祭音楽となった。


しかし、ここで、また嵐のような響き。

シラーの詩によるバスのソロ。

そして第九の大合唱の世界が始まっていく。


もはや由紀も緊張どころではなかった。

とにかく、第九を歌うことに精一杯。

他に、何も考えられない。


そして、それは音楽部も合唱部もすべて同じ。

全て光の指揮棒に引き付けられ、壮麗な第九の世界を作り上げていく。



聞いていた春奈は、途中から泣き出してしまった。

「すごいよ、光君、みんなも」

「いい、本当に、こういう音楽が聴きたかった」

「みんなの心を調和させて、力強い」

「最高だ・・・」


いつの間にか、校長はその手を組み、涙を流しながら祈りのポーズ。

「素晴らしい、これぞ神の御業」


春奈が、校長のその姿にまた涙し、ふと音楽室の外の廊下を見ると、かなり大量の学生の姿で埋まっている。

「やはり、聴きたいんだ、引き付けちゃったんだ」


校長も、それを感じたようだ。

「本番では、合唱の人数を増やしましょう、歌いたい人は誰でも」


そんな状態で、光と音楽部、合唱部の「第九初見練習」が進み、圧倒的なパワーあふれるフィナーレにて、演奏が終わった。

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