官僚の暴言と校長、そして光
しかし、高村は全くその態度を変えない。
むしろ、その口調はより厳しくなった。
「光君とやら、そして、この校長にして、日本という国を支える政府の官僚に対して、あまりにも無礼極まる態度だ」
「特に光君、君は首相直属の調査官ということで、いい気になっているのではないか?」
「それに見たところ、君がどうしてあのような実績をあげることができたのか、全く信じられない」
「とても、高校3年生の男子とは思えないような、華奢な身体」
「そのうえ、青白いような顔つきで、まったく怖さを感じない」
「戦闘をこなすというよりは、女性向けアイドルのようなルックス」
「それから、運動部には属しないで音楽?ピアノ?指揮?それで音大志望?」
「本来、首相直属の調査官であるならば、君は運動部に属して、厳しくその身体を鍛え上げるべきなのに、それに対しては全く努力のカケラもない」
「これは、せっかく君を選んでくれた首相と、日本政府、そして日本という国に対して、恥ずべきことではないのか?」
高村の言葉は、次第に厳しさを増し、今や光は「日本という国にとって恥ずべき存在」とまで言い切ってしまった。
それをじっと聞いている光は、途中から面倒そうな顔。
校長は、かなり怒りがこみ上げているようだ。
そして、校長は高村の発言を、一旦、手で止めた。
そして、校長も厳しい口調で、高村に抗議を開始した。
「高村さん、あなたの言い分は、甚だ納得しかねる部分が多いのですが」
「そもそも、あなたが突然、この学園に来た目的がわからないのです」
「今までの官僚の方々の光君への接し方とも、全く異なります」
「そして光君が実際何をして、どのような不都合をして、このような変化になったのか、当方では全く理解ができないのです」
「とにかく、この学園に来た貴方の目的を、はっきりとおっしゃってください」
「今のままでは、光君に難癖をつけに来た、それ以外には考えられないのです」
面倒そうな顔をしていた光も、その校長の珍しい怒り口調に驚いている。
しかし、高村は、校長の厳しい口調にも、まるで慌てない。
「ふ・・・私がここに来た目的だと?」
「今まで聞いていて、まだわからないのか」
「本当に程度の低い学園にして、程度の低い校長、そして程度の低い生徒たちだ」
高村は、そう言って、ソファに深くよりかかり、足を組んだ。
そして、そのスーツの内ポケットから、タバコを取り出し、吸い始める。
校長は、その動きにムッとしたようだ。
「高村さん、ここは禁煙なのです、それをもご理解いただけないのですか?」
校長の口調は厳しい。
ただ、それでも高村は、その態度を変えない。
吸いはじめたタバコから、灰がポタポタと床に落ちても全く気にしない様子。
それどころか、また強い口調で文句を言いはじめた。
「本当に程度が低い連中が、そんなことを言っても、官僚は聞くことはないぞ」
「いいか?俺たちは、国の最高学府を出て、難関の国家公務員試験に合格」
「そして実際に、この日本という国をコントロールしているんだ」
「この栄えある俺たちに対して、最高学府か見れば格下の大学を卒業した校長、最高学府を目指そうともしない意識の低い、ここの光のような学生」
「俺たちにとって、お前らなんぞ、ゴミ虫程度なんだ」
「まあ、なんと言われようと、ゴミ虫に文句を言われている程度しか感じない」
高村は、そこまで言って半分だけ吸ったタバコを床に捨てた。
そして、その靴で、踏み潰す。
火が完全に消えていなかったようだ。
カーペットの焦げる匂いと、タバコの匂いが、校長室に充満している。
高村は、そこでニヤリと笑った。
「まあ、あまりゴミ虫に関わっていると、俺の時間がもったいない」
「ここに来た目的を言ってやろう、ああ、程度の低いお前たちでも、わかりやすくな」
話を続けようと、高村がもう一本のタバコに火をつけた瞬間である。
座っていた光が、突然、立ち上がった。
そして、光は両手を胸の前で合わせる、合掌のポーズを完成させている。