通学車両内では音楽の話限定
ソフィーも光の視線に、すぐに気がついた。
そして光に声をかけてきた。
「とにかくセキュリティ対策だね、全般的な強化と警戒指示」
光が、ソフィーに頷くと、早速何かの連絡を取っている。
光は、さらにソフィーに話しかける。
「心配なのは、交通機関とか病院とか、生活に直結するシステム」
「物流系もそうかなあ、それと各マスコミ」
「まずは、そこから」
とまで話して、光は黙った。
ソフィーも、またソフィーと光の会話を聞きとっていた巫女たちも、その理由は理解した。
目の前には、駅。
これから私鉄に乗るので、周囲には不特定多数の通勤、通学客に囲まれることになる。
八方除けの結界に包まれ、外部の人間から会話が聞き取れないとはいえ、仕草など見られる場合もある。
何しろ神出鬼没の混乱、混沌系の相手に対応するためには、不用意な動き一つでも、危険が発生するため、避けなければならないのである。
「それでも」
光は、由紀に声をかけた。
由紀が光の顔を見ると
光「今日の練習の話でもしようか、それならば、問題がない」
由紀も、すぐに光の意図を理解した。
そして巫女全員に、「音楽の練習の話限定」とのテレパシーを送り、全員が頷いた時点で、八方除けの結界を解いた。
途端に、話題も音楽の話に変わった。
まず春奈が光に
「ねえ、光君、今日は練習見学していい?たまには第九を生で聞きたいの」
光が頷くと、次はルシェールが由紀に声をかけた。
「合唱で参加したいから、由紀さん、合唱部に紹介して欲しいの」
由紀が、ルシェールにニッコリと頷くと、今度は由香利。
「じゃあ、私も時間を合わせるから、由紀さん、一緒に」
由紀は、ここでもしっかりと頷く。
華奈は光に
「ねえ、今日は何楽章を練習するの?」
と、具体的な質問。
光は、少し考えて
「そうだなあ、今日は出来ても出来なくても、第一楽章から第四楽章まで、通しでやるかな」
「それをやることによって、現在の状態がわかる」
と、まともな普通の答え。
キャサリンは、その目が輝いた。
「でも、光君の指揮って初めてなので、すごく楽しみなんです」
サラは、またうれしそうな顔。
「私はチェロなので、すごく近い、ドキドキしてきました」
春麗も同じようにれしそうな顔。
「うん、第九のフルートを光君の指揮で、吹けるなんて最高だなあ」
そんな状態で、話題は全て今日の第九の練習に変わった。
光は、また全員に
「とにかく僕も振ってみないとわからない感じ」
「最初は楽譜に忠実って感じに振ってみる」
巫女たちも、それには何も言わなかった。
とにかく、今は光の第九の指揮に、ワクワクしている状態で、振り方とかテンポは光に任せるしかないのである。
さて、そのような通学車両の中では、「音楽だけの話題」に限定した一行は、
学園に到着した。
いつもの学生たちの賑やかなキャンパスを歩く中、光はまた何かを考え始めている。