光の第九試聴と巫女たち(2)
巫女たちは、ジョージ・セルとクリーブランド管弦楽団の「第九」に聞き入り、光はその演奏を聞きながら、楽譜に様々、書き込みを入れている。
そのような状態が続き、あまり会話がない。
春奈は、不思議な気持ちになった。
「ほんと、いつもは大騒ぎなのに、華奈ちゃんまで静かだ」
ソフィーも、うなった。
「光君の真面目な顔って、周囲を黙らせるのかなあ、ボンヤリとしていると、文句をついつい言いたくなるけれど」
ただ、大人巫女は、そうは思っていても、CDながらも演奏は続いていく。
途中から春奈は、気がついた。
「うーん・・・あ・・・そうか・・・」
「華奈ちゃんはヴァイオリン、キャサリンはトランペット、サラはチェロ、春麗はフルートか・・・自分のパートのところを聞いているんだ」
「そうなると由紀さんは、合唱部分だね、それを聞きたいんだ」
「ふむふむ・・・さすが真面目な我が学園の生徒たちだなあ」
と感心するけれど、それ以外の巫女たちの表情が、少し変。
ソフィーは少し悔しそうな顔。
「うーん・・・私も第九を歌いたくなってきた、でもなあ、警備もあるからなあ・・・」
由香利もそんな感じ
「卒業しちゃったしなあ、なかなか一緒にってできない、高校生の時も音楽部でも合唱部でもなかった」
ルシェールは、頭を抱えた。
「これを歌えないのは、お菓子が目の前にあって、食べられないのと同じ、光君は意地悪だ、涙が出てくる」
結局、ルシェールは涙ぐんでいる。
そんな巫女たちの様々な状態には関係なく、圧倒的なフィナーレを持って、ジョージ・セルとクリーブランド管弦楽団の第九は終わった。
光は、まだ楽譜を読んで、なにか考えたり、書き込みをしているけれど、巫女たちには光に言いたいことがあるようだ。
まずは、華奈が
「ねえ、光さん、第一楽章からもう一度、せっかくだから、鞄の中に楽譜があるから持って来たいの」
すると、由紀
「うん、私も部屋から楽譜を持ってくる」
それについては、キャサリン、サラ、春麗も同じようだ。
キャサリンが代表して、
「すぐに持ってくるので、お願いです」
すると光もさすがに指揮者、断ることも難しい。
「ああ、それなら、僕も書き込みしたところを、もう一回確認するかな」
「CDを他の演奏にしてとも思ったけれど」
と、ますます研究熱心な様子を見せる。
ただ、由香利とルシェールは、少し気に入らない感じ。
由香利
「ねえ、光君、私も何かしたい、卒業しちゃったけど、混ぜて」
ルシェール
「演奏会の場所を大聖堂にしない?私も歌いたくなった」
と、演奏参加を希望する。
光は、最初は「え?」と言う顔になるけれど、すぐに笑って了承した。
「ああ、由香利さんとルシェールならいいよ」
「由香利さんはアルトで、ルシェールはソプラノだよね」
「僕から祥子先生と校長に話します」
結局、由香利とルシェールの第九参加が決定してしまった。
しかし、難しいのは、春奈とソフィー
春奈
「いいや、どうせ光君って演奏の後に疲れるから、膝枕でもしよう」
「・・・でも、悔しい、年の差があるのが納得できない」
ソフィー
「日本政府を代表して花束贈呈して、そのついでにハグをしてしまおう」
「・・・でも、後で、この巫女たちから、何を言われるかわからない・・・」
少しずつ、年上巫女には、難しい状況が展開し始めている。