それぞれのお弁当と由紀と光
さて、光たち一行は、学園に到着した。
学園内は、昨日の始業式からのような一種の混乱状態ではなく、全く平穏に時間が流れている。
外国人転入生であるキャサリン・サラ・春麗は、光の周囲を決して離れないまでも、周囲の同級生たちとは、ごく自然に話をするようになっている。
そんな状態を見て、由紀は様々思う。
「やはり、レベルが高い三人だなあ、頭が切れるし、可愛いし、人当たりも柔らかい」
「呪力が優れ、戦闘力もすごくて・・・そのうえ、料理名人で・・・」
「こうなると、華奈ちゃんの出る幕はないなあ」
「まあ、春奈さんも、ソフィーも年齢差があるから、少しずつ対象外への道を歩んでいる」
「由香利さんが卒業して学園内にいないのは、ラッキー」
「最強ルシェールが学園内にいないのは前からだけど、それでも光君と一緒に座っている姿は、時々入り込めないことがある」
「うーん・・・こうなると、マジで本気出さないとなあ」
ただ、そう思っている由紀は、昼休みに光が食べだした「由香利特製の光用弁当」を見て、また驚いた。
「うわ!すっごい、あの鮭が美味しそう」
「玉子焼きのテリも・・・海苔も香ばしい」
「ひじきかあ・・・美味しそうなんてもんじゃない」
「あーーー普通の鮭弁当なんだけど、どうしてあれほど?」
「それに由香利さん、お茶もいい香りだなあ、お茶も名人かな」
そして驚きながら、ついでにキャサリン、サラ、春麗が食べているお弁当をチラリ。
キャサリンは、サンドイッチと紅茶のようだ。
しかし、その中身が由紀の目をひいた。
「う・・・もしかして、ステーキサンドイッチ?美味しそう・・・」
「それに紅茶はダージリン、いい香りがしている」
次に、サラを見る。
「ほー・・・美味しそうなトマトリゾットか、保温容器か、ふぅ・・・香りというかスパイスがたまらない」
「それと、エスプレッソの香りかあ・・・これはこれは」
最後に春麗
「ほーー・・・中華まん?で、中身は・・・うわ・・・フカヒレ?」
「この子も保温容器か・・・さすがだ」
「そのうえ、烏龍茶の香ばしい香り」
と、それぞれ感心しながら、自分の作った弁当を見る。
「ついつい、トンカツ弁当にしちゃった」
「悪くはないけどなあ・・・」
「よし!明日は、もう少し工夫しよう」
「それに、これから全員で光君の家で、料理研究が出来るなあ」
「これはこれで、面白い」
と、ようやく、他人が作ったお弁当に押されていた由紀は顔が明るくなった。
すると、突然、光が由紀に声をかけてきた。
「由紀さん」
由紀は、すごくうれしかった。
「なあに?光君」
つい、猫なで声になってしまった。
光は恥ずかしそうな顔で
「あのさ、トンカツ一切れと、何か交換しない?」
「由紀さんの、トンカツ、ほんと、美味しそう」
由紀は、うれしくて仕方がない。
「お弁当、全部交換してもいい」
と思ったけれど、それは少し言い出せなかった。
「アーンしよう」とも思ったけれど、ここは教室、人の目がある。
由紀「わかった、鮭の少しと、トンカツね」
その光は、本当に美味しそうに、由紀のトンカツを食べている。
由紀は、この時点で、幸せ一杯になってしまった。