キャサリンに感心する春奈
結局、その日の晩は、平穏な夜となった。
それは何しろ、光はお風呂に入って、スンナリと眠ってしまったのだから。
「スキあらば」と、「光と一緒のベッド」を狙っていた春奈は、他の巫女の強烈な視線もあり、「とても無理」状態。
春奈も、あきらめて、自分のベッドで眠る以外には、なかった。
さて、翌朝になった。
今までならば、春奈が朝食を作り、華奈がいきなり入り込んできて、二階で寝ている光を無理やり叩き起こすのが恒例であったけれど、今日からは少し異なるようだ。
春奈が、朝食を作っていると、キャサリンが隣のアパートから「おはようございます」とキチンと挨拶をして入ってきて、二階にのぼっていく。
春奈は、そこで感心した。
「あのキチンとした挨拶、キリッとした品のある笑顔、華奈とは大違いだ」
「キャサリンも、けっこう光君を任せられるタイプかもしれない」
そして、キャサリンが光の部屋に入っても、「華奈のような大騒ぎ声」は聞こえてこない。
春奈は、ここでも感心した。
「光君だって、朝一番、華奈ちゃんみたいな子供声で大騒ぎされるのが辛かったかもしれないなあ」
「キャサリンの雰囲気のほうが、朝一番にはいいかもしれない」
その春奈の予想通り、光はキャサリンとすぐに部屋から出てきた。
春奈が見る限り、光の身だしなみも、完璧、ネクタイもシャツもキッチリ決っている。
少なくとも、夏のコンサートの時のような「ボタン二個分のズレ」などはない。
春奈は、またしても感心する。
「楓ちゃんとか、華奈ちゃんの場合は、ボタンずれたまま、後で光君に文句を言うけれど、キャサリンの場合は文句を言う前に整えさせるのか」
「当たり前といえば当たり前、それでこそ、お嫁さん候補だなあ」
「ちょっと悔しいけれど、うーん・・・」
春奈が、キャサリンに「感心しきり」の状態になっていると、キャサリンと光が降りてきた。
そして光もいつもの「寝ぼけ間延び声」ではない。
「春奈さん、おはようございます」
キチンとした声、また髪の毛もいつものボサボサではない、キチンとした美男子風に整えられている。
春奈は、今度は焦った。
「マジ?キャサリンってすごい」
「あの寝坊助のノロマ亀の光君を、こんなにできちゃうんだ」
「私もこれまでは出来ない」
「おまけに、キャサリンは私よりも若いし、戦闘力もある」
春奈はとても「感心」どころではない。
マジで焦りだした。
そんな春奈に、キャサリンが声をかけた。
「春奈さん、巫女も今日から増えました、全員分の朝食を一人でというのは大変です、私もお手伝いさせていただきたいのですが」
キチンとした物言い、その目も、真摯そのもの。
春奈はまたしても焦りながら
「あ、はい、助かります、でも和食だよ」
「ご飯と焼き魚とお味噌汁とお漬物、あと玉子焼きぐらい」
春奈としては、アメリカ人のキャサリンでは「どうだろうかな」と思うのだけれど、キャサリンはニコニコとさわやかな笑顔のまま、さっとエプロンを身につけ
「大丈夫です、お手伝いします」
と包丁をサッと手に取り、鮮やかな手付きでネギと豆腐を正確に切っていく。
春奈は、その包丁さばきに見とれた。
「やはり・・・剣士?って違うか・・・」
「とにかく全ての動きにキレがある」
「マジで安心感抜群だなあ、頭も切れるし」
春奈が、そんな状態でキャサリンに見とれていると、玄関のドアが開く音がして、華奈が入ってきた。
その華奈の顔は、真っ赤、かなり機嫌が悪い顔になっている。