春麗と華奈の料理(1)
全員で再びリビングに入った。
紅茶は冷めてしまったので、光が珈琲を淹れなおした。
その珈琲を美味しそうに飲みながら、春麗は、どうも華奈に興味がある様子。
春麗は、華奈に声をかけた。
「ねえ、華奈ちゃん、夕食は奈良の料理を教えてもらうんだけどさ、私と華奈ちゃんで、何か一品作らない?」
華奈は、「え?」となって
「うーん・・・私、和食を作るのも苦手で、中華なんて難しいって」
と、少し尻込み。
春麗は、そんな華奈に
「華奈ちゃん、大丈夫だって、中華の技術と和食って違うから」
と、ニコニコとする。
華奈は、そんな春麗の顔を見て
「じゃあ、教えてもらおうかなあ・・・って、何の料理を作るの?」
と、それでも、少々のやる気を示す。
すると春麗は、ニッコリ。
「それは、中華の饅頭だよ」
「それほど難しくない」
春麗と華奈が、そんな会話をしていると、光が何か気がついた様子。
そして、華奈の顔を見て
「華奈ちゃん、そう言えばさ、近鉄奈良駅の近くにさ」
と言い始めると、春奈も気づいたらしい。
春奈
「うん、漢国神社ってある、確か、お饅頭の神様って聞いたことがある」
華奈も、やはり奈良育ち、思い出したようだ。
「あーーーわかった!お饅頭屋さんが、集まるんでしょ?」
「小さな神社だけど・・・でもどうして漢国神社って言うの?」
どうやら、理由までは知らないらしい。
光は、それでも知っているようだ。
「室町時代かなあ、中国から渡来して、日本に初めて饅頭を伝えた林って人を祀った神社だよ、別名で林神社って書いてある、母さんに教えてもらった」
「四月の中旬に饅頭祭りってやるんだって、全国の菓子業者が神前に各自製造の銘菓を供え、能楽の奉納もするって聞いたよ」
そんな光の珍しい博識に、春麗は、ますますニッコリ。
「そうなんです、光君、だから奈良と中国って、すごく関係が深いんです」
「そもそも、遣隋使、遣唐使、その前からかな」
「日本の天皇家の宮中祭祀も、中国の道教の祭祀の影響が強くあります」
光も、その春麗には、真面目に反応する。
「そうだねえ、長くて深い関係があるね」
「藤原京、平城京みたいな都市建設まで、中国の影響なくして考えられない」
「かえって平安期よりも、奈良期のほうが、影響は強いのかな」
しかし、この話の段階になると、華奈はついていけない。
どうやら、奈良に育ちながら、歴史の勉強は「お留守」だったようだ。
春奈は、ムッとした顔。
「何?この光君のマニアックな言葉、どうして隠していたの?
「ああ、気に入らない!春麗とばかり話している」
「そういうことするなら、後で絶対膝枕させる、思いっきり頭を押しつけても」
そして、キャサリン、サラもついていけない。
かなり口惜しそうな顔になっている。
そんな雰囲気がわかったのか、春麗が腰を上げた。
そして華奈に
「じゃあ、華奈ちゃん、さっそく作ってみようか、教える」
華奈も
「うん!作ってみたい!春麗先生、よろしく!」
どうやら、本当に波長が合うらしい。
二人は、さっそくキッチンに入り、「中華料理」を作りはじめた。