春奈と光が、いい雰囲気に
春奈は、真顔の光を見て、しばらく何を言っていいのかわからない。
光は、真顔のまま、ショッピングカートを引いているだけ。
それでも、光が春奈に少し近づいた。
春奈は、気持がドキドキしてしまって、身体を動かせない。
光が春奈に声をかけた。
「あとで、じっくりお話しよう」
「ここだと、話せないし」
春奈も、頷く。
さすがにスーパーマーケットの中で、難しい話も困難。
それでなくても、光と春奈の微妙な雰囲気を見れば、それを見た華奈が何を言い出すのかわからない。
光は、話題を変えた。
「それでね、学校で、奈良のにゅうめんって言ったけれど、ここで売っているかなあ」
春奈も、ようやく思い出した。
そして、突然、ホロッとしてしまう。
「光君、にゅうめん好きなの?」
光に聞きたくなった。
春奈自身、それほど、にゅうめんが美味しいものとは思っていない。
そもそも、奈良の料理は懐かしいし美味しいけれど、全国の様々な美味と比べて、段違いに美味しいとは思っていない。
光は、少し恥ずかしそうな顔になる。
「うん、好きだよ、それでね」
光は、春奈の顔を、また真顔で見る。
春奈は、またドキンと胸が鳴った。
「それでって何?」
足元がふらつくぐらいの緊張感が、春奈を包んだ。
光は少し笑った。
「春奈さんの味付けが大好き、すっごく疲れている時でも、春奈さんの料理で元気が出る、本当に僕には美味しい」
春奈は、その言葉で、身体全体の緊張がほどけた。
「人前じゃなかったら、泣いちゃう」と思うけれど、泣けないのが本当に口惜しい。
ただ、そう思うけれど、当の光は奈良のにゅうめんを探して、キョロキョロをはじめている。
「光君」
春奈は、光に声をかけた。
光が、「え?」と振り向いた途端、光と腕を組んでしまった。
そして、その腕の力を強めた。
「負担じゃないの、私は光君と一緒にいたいの」
「とにかく離れたくないの、寂しいこと言わないでよ」
春奈の声が震えた。
光は、ホッとした顔。
「ありがとう、すごく心配だった」
「春奈さんが、一番、安心する」
春奈は、涙が落ちそうになる。
言葉も出ない状態。
カートを引きながら、光も春奈の腕を強く組んだ。
「でも、買い出しもしないとさ」
春奈も、素直に頷く。
「そうだね、にゅうめんだけじゃ足りないよね」
光
「にゅうめんに合うのは・・・」
春奈
「普通の、おばんざいみたいな感じかなあ」
・・・・
少し、微妙な二人は、いつの間にか、いい雰囲気になっている。