光の珍しく神妙な顔
そんなたわいもないバトルは続かなかった。
やはり、本来の目的は、キャサリン・サラ・春麗の日用品の買い出し。
光も、ようやくそれを思い出し、駅北の高級スーパーに一行を案内する。
春奈が、光に声をかけた。
「ねえ、光君、あとでじっくりお話がある」
「で、それはともかく、食材を買っていくよ」
「人数も増えたんだから、荷物持ちぐらいはしなさい」
「いい?反論は許しません」
かなり厳し目の口調。
やはり、光の「無粋極まる膝枕発言」に、まだお怒りの様子。
光は、厳し目の春奈には、かなり弱い。
シュンとなってしまい、自分でカートを引いている。
春奈は、次に華奈に命令する。
「そこの華奈ちゃん、あなたが一番年齢が近いんだから、キャサリンたちの買い物のお手伝いをしなさい」
「若い若いって言うんだから、それぐらいはできるよね」
春奈の言葉は、華奈に対しても厳しい。
それは、華奈が失言した「大年増」の表現を、まだ根に持っている。
華奈も全く春奈に反発ができない。
「どうせ、この状況はソフィーが透視しているし、呪文間違いごとに、あの鬼母美紀に言われたら、お小遣いなくなるし、おやつもなくなる、とんでもないことだ」
と、素直にキャサリン、サラ、春麗を先導して、春奈と光から離れていく。
・・・ただ、春奈の計画は、「厳しいことを言って、光をシュンとさせ、独占する」こと。
それに、春奈にとって「ソフィーの膝と春奈の膝」の比較など、どうでもいいし、そもそも負けるなどとは思っていない。
「そんなね、光君なんて、誰の膝枕でも寝ちゃうに決まっている」
「それでなくても、ボンヤリ頭なんだから、膝の違いなんかわからないって」
「それにソフィーの太ももって、筋肉質でしょ?」
「私のほうが、やはり日本人だし、ふっくらしているもの」
春奈は、ここで決心した。
「よし!どうせ巫女連中は、隣のアパートだし」
「みんないなくなったら、光君に失言の罰として、強制膝枕だ」
「そして、どうせ、眠っちゃうから、あの広いベッドで一緒に寝ちゃおう」
「ふふ・・・そうなると、うれしいなあ」
「これで、一歩も二歩もリードさ・・・」
そんな春奈が、ついついニンマリとしていると、光が突然、口を開いた。
「ねえ、春奈さん」
けっこう、神妙な声になっている。
春奈は、「やばい・・・怒りすぎたかな」と思ったけれど、光の次の言葉を待った。
光は、またしても神妙な声。
「春奈さん、ごめんなさい、いろいろと迷惑かけて」
「人がたくさん増えちゃって、どうしたらいいのかわからない」
その顔も、沈んでいる。
春奈は、その沈んだ顔が気になった。
「仕方ないじゃない、集まっちゃったんだから」
「そういう事態なんだから、そんな暗い顔しないでよ」
と、光に諭すけれど、光の沈んだ顔は変わらない。
光は言葉を続けた。
「一番心配なのは、春奈さんに負担かなあって」
「本当に夏から、面倒を見てもらって」
「こんなに面倒みてもらっていて、また負担かけるのかなあって」
珍しくぼんやり顔でもなく、キョトン顔でもない、真顔になっている。
春奈は、光の真顔が気になった。
そして「春奈さんに負担」が本当に、グサッときてしまった。
「あのさ・・・光君・・・」
そこまで口に出して、しばらく言葉が出ない。
真顔の光が、春奈をじっと見つめている。