香苗は連行されてしまう 柏木綾子は光に猛アタック
香苗のスマホの画面に出ているのは、海外ニュースの速報だった。
「クレタ島の神殿巫女財団に現地政府の緊急税査察」
「世界各国の著名人から超高額送金、それを偽名口座で蓄財」
「秘密銀行か?個人名ではなく、暗号や偽名による口座開設がほぼ全口座」
「ブラックマネーの温床地か?」
「神殿巫女財団のトップ巫女が、入水自殺」
香苗は、コンサート中の高揚した気分は、全くなくなってしまった。
立ち上がる気力さえない。
快感や快楽で立ち上がれなかったコンサート途中ではない。
恐怖と喪失感で、立ち上がれなくなってしまったのである。
その香苗の前に、数人のスーツを着た男が立った。
そして、その中の香苗に声をかけた。
「松村香苗さんですね、警察庁の者です」
「東京都内で、恐喝罪、暴行罪の嫌疑がかけられています」
香苗がビクンとして、その男の顔を見上げると、
「香苗さん、国際手配もされていますね」
「クレタ島の神殿巫女と、何かの関係が?」
「そこに残されていた資料に、日本人の名前が1人あって」
「それが松村香苗さんと・・・」
「生年月日、性別、指紋も一致したとか」
その「警察庁」の男の言葉が続くけれど、香苗の耳には途中から、何も入らない。
そもそも、全身の力が抜けてしまった。
「御同行願います」
香苗の耳に、はっきり聞こえたのは、その言葉だけ。
香苗は、その花のような笑みもなく、力なく連行されていった。
さて、演奏を終えた光と楽団は、学園に戻り、演奏会終了後のパーティーに出席することになった。
学園までのバスに乗り込もうとする光に、柏木綾子が声をかけた。
「光さん!ありがとうございます!」
「本当に何から何まで、助けていただいて!」
光に真言立川流の生贄になる不安や恐怖から、すがった時の沈んだ表情は、全くない。
光は、少し笑って、綾子の手を握った。
「うん、安心した?」
「綾子ちゃんの笑顔が戻って良かった」
綾子は、その言葉で顔が真赤。
「ありがとうございます、安心しました!」
「それに、私の笑顔が戻ったなんて、前の笑顔を知っているんですか?」
光は、それで、焦った。
実は、全く関心が無かった女の子だったから。
だから、答えもいつもの「いい加減な」ものになる。
「えーっと・・・うんうん・・・」
「可愛くて明るくて、いい女の子だなあと」
まさに「月並み」な答えになっている。
ただ、柏木綾子の反応は、「月並み」などではない。
光がバスの座席に座ると、サッと隣に座ってしまう。
そして、ポンポンと光に話しかける。
「えーーー?そうだったんですか?」
「だったら、もっと前に言ってください」
「光さんは、私のアイドルなんですから!」
「わーーー!うれしい!」
そのまま、何の遠慮も無く、光の手を握ってしまう。
ただ、この綾子の行為と、光の「押しまくられの、いい加減さ」は、相当な問題だった。
少し遅れてバスに乗り込んで来た巫女集団は、「超お怒りの目」で光を見ているのである。