悪意の花束に異変が発生
聴衆からの大きな拍手が鳴りやまない中、花束贈呈が続いていく。
光は、まず学園長から花束を受け取り、大きく聴衆に掲げ、また大きな拍手を受ける。
春奈は、その姿を見て、一応安心。
「ふむ、やはり学園行事の一環としてのコンサート」
「光君も、それを自覚しているから、学園長から花束を受け取り、聴衆に提示する」
学園長の後は、それぞれ、コンサートマスターや各パートのリーダーが花束を受け取り、光と同じように、聴衆から大きな拍手を受けている。
さて、そのような、花束贈呈が続く中、クレタの神殿からの刺客香苗は、光に花束を渡すべく、ステージに向かう。
香苗は、光のベートーヴェンに、全ての毒気や邪心を壊滅されながらも、思い出す。
「本部からの指示は」
「この花束の中のカプセルを、光に渡す寸前に開ける」
「すると、秘香が、カプセルの中から立ち上がる」
「その秘香は、目の前の光には当然、ホール全体に素早く広がり、ホール内の人間の意識を奪う」
「そして、香苗は、それを確認して、光の唇を奪い、唾液を流し込め」
「それで、全て、我らの計画が成就する」
香苗は、本部からの「我らの計画」の真の姿を、思い出す余裕がない。
聞いてはいたけれど、何故か思い出せなくなっている。
それでも、指示されたことは、完遂させなければならない。
「それが出来なければ、八つ裂き、車裂き・・・」
「それを何人も見ている、若い娘といっても、容赦も何もない」
その香苗は、ようやく、客席の最前部、ステージの直近の場所に到着した。
花束贈呈の仕切りを行ってい、音楽部顧問の祥子先生には
「光君と、ここの学園の音楽部のファンです、名前は香苗とだけ」
と告げた。
すると、祥子先生が、演奏会場全体にアナウンス。
「それでは、花束贈呈の最後といたしまして、光君と、ここの学園の音楽部のファンと言われる若い女性、香苗さんから、光君に花束を渡していただきます」
香苗がステージにあがると、会場全体から、驚きの声。
「え?可愛い!」
「メチャ、アイドル系?」
「スタイルがいいなあ」
「コスプレみたいな衣装、似合うなあ」
「グラビアモデル?」
「どうしてここに?光君と学園の音楽部のファンなの?」
・・・・
かなりざわつく中、香苗は、ゆっくりと光に近づく。
「ここで、カプセルを開ける」
香苗は、本部からの指示通りに、カプセルを開けた。
すると、確かに、香りが立ち上がった。
しかし、秘香というほどの香りではない、
懐かしいような、お菓子のような甘い香り。
その香りをかいで、香苗は光の顔を見て、そして聴衆を見た。
そして、首を傾げた。
「何の変化もない・・・どういうこと?」
香苗が驚いていると、光の笑顔が目の前にある。
その光から、声がかかった。
「香苗さんって言うんですか?」
「ありがとうございます」
香苗は、焦った。
ここでためらっている場合ではないと思った。
頭を下げて、光に花束を渡そうとする。
すると、その花束に、信じられないような異変が発生している。




