第九のフィナーレと、巫女それぞれの想い
第九交響曲は、ついに第四楽章に入った。
光の指揮は、ますます輝きを増し、第九の世界を崇高に歌い上げていく。
歓喜の歌のフレーズが始まると、暗いはずの客席まで、輝きに包まれるかのような高揚感と幸福感に包まれる。
そして、大合唱となり、それからフィナーレまでは、まさに至高の音楽の神が顕現、聴衆全体、奏者も含めて圧倒的な感動に包まれたクライマックスを迎えたのであった。
光は、指揮棒を降ろし、聴衆から地鳴りのような拍手を浴びている。
キャサリンは、思った。
「日本に来て良かった」
「光君のこんな素晴らしい音楽の世界、実際に参加して見ないとわからなかった」
「こうなると、思いを遂げるまで、日本に残らなければ」
「邪宗の攻撃は全て解除されたけれど、私の目的は光君の子種をいただくこと」
「その目的を果たすまでは・・・」
キャサリンの目に、また新たな闘志が宿る。
サラも、聴衆の拍手に応える光を見る。
「クレタの巫女集団も、阿修羅にはかなわないとわかっていたはず」
「それでも、光君のひ弱さには、つけ込む隙間があると考えた」
「それで、様々な小細工やら何やらを仕掛けた」
「その小細工に、いちいち対応するには、戦闘力も併せ持つ巫女が警護しないと、光君だけでは可哀そうすぎる」
「何しろ、日本育ちの巫女には、戦闘力がないから」
「それで私たちが、警護としてついた」
「でも、私の目的も、キャサリンや春麗と同じ、光君の子種を、阿修羅の血を体内に入れること」
「だから、負けない」
サラの目は熱く光を見上げている。
春麗は、もっとシンプルに考えている。
「とにかく、光君の身体を奪うこと、そして子種をいただくこと」
「今までは、様子を見ただけ」
「他の巫女の力を見ていただけ」
「我が中国六千年の秘術を使う、必ず光君を落とす」
春麗の瞳にも、熱い闘志が宿っている。
ルシェールも戦闘系の巫女の思いは理解している。
しかし、認めることはない。
「そんな簡単に光君は落とせない」
「光君の伴侶は、私しかつとまらない」
由紀は、ステージ上から聴衆を見ている。
「あの美少女集団も、骨抜きにされた」
「邪念や悪霊は全て、ホールの天井の春日様の霊蜘蛛に吸い取られ」
「もはや地方出身の可愛い女の子集団に過ぎない」
由香利は、その美少女集団の中でも、飛び切りの美少女香苗をじっと見ている。
「ふふ・・・花束を持ってヨロヨロと立ち上がった・・・」
「ここまでは、必死に来れるかな」
「まあ、どうにもならないと思うけれど」
柏木綾子も、相当落ち着いた様子。
「親が危険な毒薬を花束に仕込んであるって言っていたけれど」
「おそらく、笑えるようなものに変わっている」
華奈も聴衆を見ているけれど、すぐに視線は光に戻し、また独自の発想。
「ここまで来れば大丈夫、それより何より光さんの指揮で、運命と第九なんて」
「光さんと何度も目があって、幸せだった」
「これは私の気持が、しっかりと通じたに違いない」
奏者たちは光の指示で、一斉に立ち上がり、奏者も聴衆からの大拍手を受ける。
花束贈呈は、その後の予定、指揮者、コンサートマスターなどに渡されることになるけれど、何しろ花束を持ってくる人が多い。
光のクラスメイトや、合唱部員、音楽部のOBなど、約10人もいるだろうか。
舞台袖で、その「仕切り」をするのは、音楽部顧問の祥子先生。
その祥子に、ソフィーが声をかけた。
「あのコスプレ風の超美少女の花束は、光君に渡してください」
少し小首を傾げる祥子に、春奈は、意味ありげな顔。
「面白いことが起きるかも」
春奈の後で、楓とニケが笑っている。