表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
361/371

光の魂を込めた「運命」が始まった。

開演5分前のブザーが鳴り、

「ご来場の皆さま、まもなく演奏開始となります」

「皆さま、御着席をお願いいたします」

のアナウンス、少しざわついていた客席が、静かになった。


由紀が、光の前にきた。

由紀は光の内ポケットに、何かを入れる。

「これ、寒川様の八方除け特別祈願のお札」

光は、すごくうれしそうな顔。

「ありがとう、いつも助かる」


少し出遅れたルシェールと由香利は悔しそうな顔。

ルシェール

「う・・・仕方ない、第九の出番の前に取り返す」

由香利

「演奏会後のパーティーでは、光君を独占して踊る」

そんなブツブツがあったけれど、光はうれしそうな顔から、真顔に戻った。


今日はステージマネージャーをつとめる音楽部顧問の祥子先生が、音楽部員に指示すると、音楽部員はステージに出ていく。

祥子先生は音楽部員全員がステージに着席したのを確認、光に目で合図をする。

光は頷き、ステージに向かう。


その光の後ろ姿を見て春奈は、震えた。

「すごい・・・気合入ってる、怖いくらい」

ソフィーも真顔。

「すべての邪を破却する運命交響曲にするんだ」

ルシェールの頬が紅潮している。

「すごいことになりそう、第一曲目から」

由香利は姿勢を正す。

「うん、心して聞く、光君の魂の運命だもの」


光がステージに登場すると、ものすごい拍手。

まるで地雷が鳴るような音になっている。

舞台袖から、その光を見た楓が珍しくウットリしている。

「かっこいい・・・それだけ・・・」


光は、ゆっくりと指揮棒を構えた。

その指揮棒に、音楽部員の視線が集中する。


「運命の冒頭」がホールに鳴り響いた。


客席の聴衆全員の身体がビクンと震えるほどの衝撃。

ほんの一瞬の間。

そして、再び運命の冒頭のフレーズが鳴り響き、音楽の展開が始まっていく。


客席で聴いていた大指揮者の小沢がポツリと漏らした。

「神・・・神のごとき冒頭・・・」

しかし、それ以上の言葉が出ない。

流麗にして輝きあふれる光の「運命」が、ホール全体を響かせていく。


「お固いベートーヴェン」

「すぐに眠くなる」

「寝てるだけでいいや」

などと言っていたアイドル並の美少女集団の顔には、そんな気配が何もない。

ただただ光の運命に引きずり込まれ、身体を震わす、あるいは圧倒されて聴きいるだけの状態。


第二楽章に入ると、そのまろやかなメロディーが、ゆったりと聴衆全員を魅了する。

目を閉じて、うっとりと聴き入る者。

手を組んで、神を拝むかのように光とオーケストラを見る者。

全ての苦悩から解放されたような、やわらかな顔になる者。

すでにまだ第二楽章と言うのに、瞳に涙をためている者までいる。

そして、その魅了は一般客だけではなく、アイドル並の美少女集団にも区別はない。


舞台裏で聞いている、巫女たちも、この光の「運命」には、何も声が出ない。

声を出すのも、音楽の邪魔になる。

何かを考えるのも、音楽の邪魔になる。

とにかく、ただただ、光の奏でる「運命」の世界にいたい。


そのような状態で、「運命」は第二楽章から、第三楽章へと進んでいく。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ