客席のアイドル風美少女集団、舞台裏の光
さて、客席に座ったアイドル並の美少女集団は、騒ぐこともなく、素直にプログラムノートを見ている。
「この光君って指揮者が可愛い」
「少女漫画に出て来る男の子みたい」
「お肌が白くて目がクリクリってして」
「でもさ、曲が運命と第九でしょ?」
「超カタくない?」
「演奏始まったら寝ちゃう」
そんなことを言いながら、見回す者もいる。
「ところで、スカウトされた豊村っておじさんがいないよ」
「うん、麻紀って、妖しい女もいない」
「何もしなくていいのかな」
「演奏が始まったら指示を出すっていったけどさ」
「指示出す人が二人ともいないよ」
「じゃあ、寝てるだけでいいのかな」
「座ってるだけで、1万円もらうなんて、美味しい仕事だなあ」
周囲の観客を気にする者もいる。
「なんかコスプレ風で私たち浮いているかも」
「でも、あまり見られていない感じ」
「これは、やばいなあ、見られるのがアイドルなのに」
アイドル並の美少女集団の会話は、そんな程度。
「演奏が始まったら指示を出す」と言う、豊村と麻紀がいないのだから、やることがなく、超お気楽な状態になっている。
その中で、「指揮者の光を狙え」と指示を出された、美少女集団の中でも、飛び切りの美少女香苗は、目がランランと輝いている。
「ふふ・・・」
「豊村も麻紀もいなくなったか」
「まあ、いい・・・単なる捨て駒って本部で言ってた」
「金で雇ったガキ娘たちは、使い物になりそうにないけれど」
「本部からの私への指示は、混乱に乗じて、光に薬入りの唾液を流しこめ」
その香苗の足元には、大きな花束。
「この花束の中のカプセルを開ければ、縛り効果のある香りが出る」
「花束贈呈で、指揮者の光って子に近づく」
「近づく寸前に、カプセルを開ける」
「すると、光が固まる、その瞬間に唾液を流し込む」
そこまで思って香苗は、フフッと笑う。
「こんな簡単な仕事で、10万円?」
「美味しそうな男の子の唇を奪って10万、マジに美味しい」
演奏会の開演10分前になった。
ステージの裏では、チューニングが始まったようだ。
いろんな楽器の音が聞こえて来る。
客席を少し歩きまわっていた春奈が、ステージ裏に戻って来た。
そして光に声をかける。
「ねえ、アイドルみたいな女の子がたくさんいるの、ちょっと場違いだけどね」
光は、あまり関心がないらしい、楽譜に注目しているのみ。
春奈は、もう一言あった。
「その中に、超可愛い子がいるの、花束を持っていたよ、後で花束贈呈でもするのかな」
光の顔が少し動いた。
そしてブツブツ。
「どうでもいいよ、そんなの」
「演奏開始前に、どうでもいいこと言わないで、集中してるんだから」
春奈はムッとなり、ソフィーはニヤニヤとなっている。