光はモンスター二体もファンにしてしまったようだ
豊村の目からの涙を見て、震えていた麻紀の両隣に二人の若い女性が立った。
一人は、金髪、完璧に整った美しい顔と美しいスタイルの女性。
何より、その目の輝きが凄まじい。
麻紀は、その容姿と目の輝きに、引き付けられ、まるで「石」のように、固まってしまった。
そしてもう一人は、真紅のチャイナドレスを着た、中国美少女。
まるでアニメにも出て来るような完璧美少女である。
麻紀は、「石」のように固まりながら、その身体が何故か、水浸しのような感覚。
その上、息苦しさが半端ではない。
「呼吸ができない・・・寒い・・・このままじゃ・・・死ぬ・・・」
苦しむ麻紀に、金髪の女から声がかけられた。
「この馬鹿女、この演奏会を邪魔しようなんて、何を考えているの?」
「お前たち程度の力で、かなう相手でないんだ」
「半端者が・・・」
その金髪女の声が続けられるたびに、麻紀はまさに立っている石状態。
チャイナドレスの超美少女からも声がかかった。
「あの若い男の子は、最強神にして最高神阿修羅様の宿り子」
「それから、八部衆の神々の警護」
「四天王や金剛力士二体もこの場を囲んでいる」
「とてもかなう相手ではないの」
麻紀は、もはや声も出ない。
身体は固まり、どんどん冷え、意識はほとんどない。
金髪女が麻紀に、再び声をかけた。
「私はメデューサ、もう一人は白蛇精」
白蛇精の身体から、縄のようなものが出て、麻紀を縛る。
「私たちも、光君の演奏を聴きたいの、邪魔はさせない」
「それから・・・連れて来た娘は、一人を残して、くだらない薬の効き目はすでに消し去っている、地蔵様がね」
薄れゆく意識の中、メデューサが麻紀に決定的な言葉。
「まあ、一人残した娘にしろ、光君には通用しない」
「そもそも、光君をお前たちは、何も理解していない」
「お前たちの組織は、本部を含めて、消滅となる」
麻紀は、その言葉の時点で、意識が飛んだ。
その麻紀の石のような冷たい身体を、メデューサと白蛇精が不思議な呪文、演奏会場から消し去っている。
また、豊村は、精悍な容姿は消え去り、身体全体から血が噴き出し、憔悴しきってしまった。
そして、豊村も、そのまま周囲を囲んだ男たちにより、どこかに連れ去られてしまった。
さて、本番を待つ舞台の袖口では、ニケが光におにぎりを渡している。
光は、本当に美味しそうにムシャムシャと食べている。
「ほんと、葉唐辛子のおにぎりって、美味しい」
「ニケさんのおにぎりが最高だ」
勢い余って、珍しく二つも食べている。
ニケは、いつもの通り元気な笑顔。
光の背中をポンと叩く。
「まさかのモンスター二人が、協力してくれてね」
「何でも、光君の運命と第九を聴きたいんだって」
ソフィーもいつのまにか、上空からおりて来た。
「私も笑っちゃったよ、メデューサと白蛇精だもの」
「あれは女の嫉妬かな」
「というか、光君のファンになっちゃったらしい」
楓はその話を聞いて、不思議な顔。
「うーん・・・こんなひ弱で無粋でアホな光君のどこがいいのかなあ」
「まあ、お人形遊びの仲間ぐらいにはなるけどさ、可愛いから」
ただ、楓の光への言及はそこまで、あっと言う間に「おにぎり三つ」を平らげている。