トップからの刺客香苗
演奏会場近くの公園には、アイドル並の若い美少女が500人ほど集結し、にぎやかな雰囲気になっている。
また、公園を歩く人たちも、これほどの大人数の美少女など見慣れていない。
どうしても、注目を集めてしまうようだ。
「マジ?何かイベントでもあるの?」
「アイドルのイベント?そんなの知らない」
「高校生のオーケストラの演奏会があるくらい」
「運命と第九ってポスターにあるけど・・・」
「そんなクラシックなんて、あの若い女の子たちが聞くわけないでしょ?」
「じゃあ、何で?」
「知らないわよ、そんなの!あなた見過ぎ!」
少々、揉めてしまうカップルもあるくらい、にぎやかである。
そのような状態の中、麻紀が豊村に声をかけた。
「ねえ、あの人たちの言う通りだよ」
「わざわざ、演奏会ホールに入って、混乱を起こさなくても」
「ここで、あの娘たちにやらせても同じことでしょ?」
「私、クラシックなんて嫌いだし」
麻紀は、どうにも面倒なナゲヤリなタイプの雰囲気。
しかし、豊村は、麻紀の意見など、全く受け付けない。
「だめだ、これは、俺だけの意見ではない」
「もっと、上、トップからの指示」
「演奏会場で混乱させ・・・」
豊村が、そこまで言い、声を低くした。
「トップからの指示は、何があっても、指揮棒を振る光ってガキに薬を飲ませろとな」
「俺も、深い意味は知らん」
麻紀は怪訝な顔で豊村を見るけれど、豊村の視線は、別の方向に向いている。
その豊村が、大きな声を出した。
「香苗!こっちに来い」
麻紀は、本当に嫌そうな顔になるけれど、「香苗」と名前を呼ばれた少女は、
「はーい!」
まさに明るく爽やかな声で、アイドル並女子集団を抜け出し、走り寄って来る。
麻紀は、自分たちの前に立った香苗を見て、思わず身が震えた。
「う・・・可愛い・・・」
「明るい笑顔・・・美人・・・」
「胸もお尻も、脚もきれい・・・」
「ウェストもキュッと締まって・・・この世の人?」
豊村は、震える麻紀を「フン」とあざ笑うような顔。
「麻紀!これがトップが送って来た娘だ」
「まあ・・・そこいらの美少女とは、ランクもレベルも違う」
「顔も、身体もな」
香苗の光輝くような美しさと、豊村の無慈悲な言葉に、麻紀は唇を噛んでいる。
豊村は、そんな麻紀は無視。
香苗に演奏会のチラシを見せて、指示をする。
「香苗・・・このガキを狙え、指揮棒を振るから、わかりやすい」
「ホールでも楽屋でも、どこでもいい」
「とにかく、口をつけて、お前の唾液を、このガキに流しこめ」
香苗は、チラシを見ながら、にこにこ。
「へえ・・・光君って言うんだ」
「なんか、可愛い感じね」
「高校生の指揮者で、運命と第九?すっごいなあ」
そして豊村の顔を見た。
「ねえ、豊村さん、唇を奪って唾液だけだと、つまらない」
豊村と麻紀が「え?」と言う顔になると、香苗の目が輝いた。
「ふふ・・・食べたくなってきた」
「女の直感かな、この子、絶対美味しい」
「絶対、奪っちゃう」
豊村と麻紀は、香苗の目に、「怖ろしいほどの激情」を感じ取っている。