組織の指示と本堂の異変?
古びた寺の本堂から、次の生贄を探しに、若い女は街をぶらついている。
しかし、ただ、ぶらついているわけではない。
しっかりと生贄となることができる「高い霊的能力を持つ美しい娘で、かつ処女」を見つけなければならないのである。
そのため、自らの透視能力を駆使して探すけれど、なかなか見つからない。
ブツブツとつぶやきながら、歩き回る。
「ったく・・・変な邪魔が入った」
「あの諏訪の娘がよかったのに、能力も高い」
「組織も、認めていた」
「大満足で褒められたりもした」
「そもそも、生贄の能力が高くなければ、効果のある薬は作れない」
「組織の指示は、髑髏本尊の儀式を行って、あの諏訪の娘を生贄に、魔の媚薬を作れと」
「ちょうどいいことに、あの娘の学園で、演奏会をするというから、そこで撒けと・・・」
「確かに、紛れ込ませるのも、簡単だ」
「強い媚薬を粉末にして、演奏会のホールで振りまく」
「途端に、ホールは愛欲と錯乱の場に」
「その愛欲と錯乱から出た汗は、大気中に拡散」
「それが、絶大な効果をなす・・・というのに」
若い女は、歩き回りながら、こんなことも考える。
「組織も、別に、演奏会などを狙わなくても、良かったかもしれないけどなあ・・・」
「媚薬を撒くだけなら、人が集まる繁華街とか、駅や列車内でも十分と思うけれど」
歩き回っていると、若くて美しい処女は、かなりいる。
「問題は、霊能力がある娘がいない」
若い娘は、途中で面倒になった。
「間に合わないって、こんなんじゃ・・・」
探すのをあきらめようとも思う。
しかし、すぐに首を横に振る。
「組織の上からのお達しだからなあ」
「あの諏訪の娘の学園の演奏会で媚薬を撒けってのは」
「違うことをすれば、こっちが殺される」
「八つ裂き、車裂き・・・死体は犬に食われる」
「男は、焼却炉か・・・」
そこまで思ったところで、若い女は本堂のことを思い出した。
「始末は終わったのかな」
「せめて、髑髏だけでも、増えていないと、組織が来た時に、また責められる」
「あのレスラー崩れの大男・・・何をボケてるんだ」
「鈴の音?貧相な坊主?それで鍵が開いて、鎖も南京錠も外れた?」
「そんなのが組織で通用しないって」
「とりあえず、髑髏だけでも確認するか」
「生贄は、また、街に出よう」
繁華街での「高い霊能力を持つ、若く美しい処女」の探索を一旦あきらめ、若い女は、再び古びた寺の門まで戻った。
すると、本堂の前に、一人、男が立っている。
「おい!麻紀!」
男は、かなり精悍な容姿。
見るからに格闘が強そうな雰囲気。
「麻紀」と呼ばれた若い女は、その男を見ただけで、身体が震えた。
「あ・・・これは・・・豊村様・・・何用で・・・」
その「豊村」がツカツカと麻紀に歩みよった。
そして、そのまま麻紀の首をつかみ、恐ろしいほどの低い声。
「おい!麻紀!何があった!」
「諏訪の娘はどうした!」
「監禁したはずの諏訪の娘の両親は、どこに行った!」
「レスラー崩れの男も、極道も・・・」
麻紀は、全く答えられない。
何しろ震えてしまって声が出ない。
豊村は、そのまま、麻紀を本堂まで引きずり、扉を開けた。
麻紀は、目を見開いた。
本堂の中は、見たこともないような状態に変わっている。