不思議な美少女、柏木綾子が光の前に
学園の音楽部の練習は順調に進み、演奏会も一週間後となった。
今日の放課後の全体練習は、気分転換のため、お休み。
光は、そのため、指揮をする必要がない。
「今日は帰るかな、たまには一人で散歩でもして」
そんなことを言って、一人で教室を出て帰ろうとするけれど、そうは簡単に進まない。
キャサリンが、珍しく怒り顔。
「困ります!何を考えておられるのか!」
「指揮棒を振らなくても、各パート練習にはお付き合いするべきでは?」
サラは、その豊満な身体をグイッと光の前に。
「無理やり、担いででも、音楽室に連れて行きますよ」
「それが恥かしくなかったら、素直に同行願います」
確かに、サラは華奢な光など、軽く担ぎ上げられるような立派な体型をしている。
春麗は、直接的。
有無を言わせず、光の腕を組んでしまった。
「木管の練習に付き合って!」
「その後、肉まんおごるからさ」
その様子を見ていた由紀は、光が可哀そうになった。
「光君・・・マジで自由がない」
ただ、そうは言っても、由紀とて、光の一人歩きを認めるわけではない。
「木管の練習に付き合ったら、合唱のバランスを見て欲しい」
「光君の好きな、お団子とほうじ茶でどう?」
由紀も、どうやら「食べ物系」で、光をつなぎとめる気持ちがあるようだ。
さて、そんなスッタモンダの状態で、音楽室に向かって廊下を歩きだした光の前に、一人の少女が歩いてきた。
そして、その少女は、光に何か話があるらしい、光の前で立ち止まり、頭を下げた。
「あの・・・光さん、お忙しいのに、本当に申し訳ありません」
「私・・・二年生の、柏木綾子と申します」
見るからに繊細な雰囲気。
色白で華奢、光を前に、緊張しているのか、かなり震えている。
光は、「え?」という、いつものポカンとした顔。
「あの・・・何か?」
ぐらいで、何も言葉を返せない。
キャサリン、サラ、春麗は同時に思った。
「光君・・・マジ?もう少し・・・言葉がないの?」
「人気者の光君に声をかけるというのは、すごく緊張しているって、わからない?」
由紀も、少し呆れたけれど、その柏木綾子に、何か違和感を持つ。
「すごく可愛い女の子、美人だよね・・・しっとり系?」
「落ち着いている、今は、緊張しているけれど」
「大騒ぎの華奈ちゃんとは、違うなあ」
「でも・・・どこかが・・・すごく暗い部分がある」
柏木綾子は、また深く頭を下げた。
「私、すごく、困っていることがあるんです」
そして、その顔をあげると、その目が潤んでいる。
光は、ますますわからない。
「そう、突然、言われましても」
かなり、困ってしまう。
柏木綾子の後から、パタパタと華奈が走ってきた。
そして柏木綾子に、迫った。
「綾子ちゃん!何しているの?」
「これから光さん、音楽部の練習なの!」
「演奏会まで、一週間なの!」
「急でなければ、後にして!」
かなり、キツイ言い方。
「本当に申し訳ありません、また、いずれ・・・」
柏木綾子は、目にたっぷりと涙をため、素直に引き下がっていく。