剛力阿形の、振り回し
「はじめ!」
審判の号令と同時に、大柄なブラジリアン柔術の選手が、阿形に低く突進した。
阿形は、腕を組んだまま、微動だにしない。
光がフッと笑う。
金剛力士の吽形も珍しく、口元を緩ませる。
ブラジリアン柔術の選手にとっては、完璧のタックル。
「ふん、こんなでくの坊など、倒して馬乗りになって、殴りつけるだけだ」
「構えも何もない?馬鹿にするな!」
「さて、倒すか・・・」
そのブラジリアン柔術の選手が、首を傾げた。
「何?こいつ・・・石か?」
「動かない・・・何故だ」
「重い・・・石を超えて岩か?」
とにかく、タックルのスピードも速く完璧。
しかし、阿形はピクリとも動かない。
ブラジリアン柔術の選手の頭上から、荒れた声が降って来た。
「おい!お前、何してる」
「倒したいのか?」
「なんだと?」
ブラジリアン柔術の選手が、阿形を見上げた瞬間だった。
「グワッ!」
阿形の大きな手のひらが、ブラジリアン柔術の選手の頭を掴んだ。
そして、万力のような力で、グイグイと締め付ける。
坂口がうなった。
「あれは・・・昔懐かしい、プロレスの技だ」
「アイアンクロー、鉄の爪かな」
斎藤が驚いた。
「頭にグングン、指が食い込んでいる、あれは痛い」
阿形は、頭を掴んだまま、大柄なブラジリアン柔術の選手を持ち上げた。
ブラジリアン柔術の選手は、すでに頭を掴まれた激痛で、何の抵抗もできない。
すると、光が嫌そうな顔。
「全く・・・力づくで・・・品がない」
阿形は、ブラジリアン柔術の選手の頭を掴んだまま、振り回し始めた。
始めのうちは、ブラジリアン柔術の選手の足は、畳についたまま、振り回されていたけれど、次第に、持ちあがっていく。
キャサリンが目を丸くした。
「きっと、頭の上まであげて、振り回すのかな」
サラは、怖くなった。
「ブラジリアン柔術の選手の首が折れるか、抜けるか・・・」
春麗は、阿形の次の動きを予測した。
「おそらく、脳天から畳に・・・」
春麗の予測通りだった。
阿形は、ブラジリアン柔術の選手の頭を掴んだまま、思いきり、畳にめり込ませてしまった。
「一本!」
審判により、阿形の勝利が宣告された。
脳天から頭を畳に、めり込まされたブラジリアン柔術の選手は、ほぼ意識がない。
ブラジリアン柔術の総監督が、倒された選手のところに駆け寄って、様子を見る。
そして、どういうわけか、横たわる選手に「つば吐き」。
平手で、頬を叩いたりもする。
ソフィーがブラジリアン柔術の総監督の心を読んだ。
「結局、期待していたのに、呆気なくやられたので、面子をつぶされた」
「それで、選手に怒っている」
阿形の次は、吽形、吽形も相当厳しい顔をして、立ち上がった。