道場破りの背景に、利権の匂い
校長室での情報交換、打ち合わせも、ほぼ終了。
斎藤だけは、春奈とソフィーの治療を受けているけれど、光は教室に戻った。
自分の席につくと、さっそく由紀が話しかけてくる。
「ねえ、斎藤さんは何とかなりそう?」
光は頷いた。
「うん、薬師如来の治癒秘法を使っているから、午前中には回復するはず」
由紀は、不安気な顔。
「ブラジリアン柔術との対決が心配」
光は、少し笑う。
「大丈夫、心配いらない」
由紀は、真顔で光を見る。
「見に行ってもいいよね」
光は、少し考える。
「思いっきり、ぶっとばしてしまうけれど」
「そうなると手加減するかなあ」
由紀は首を横に振る。
「手加減しないでいい、私も気に入らないし」
やはり、由紀も巫女力で校長室での会話を読んでいたらしい。
ただ、学園内でのブラジリアン柔術関連の話は、そこまでだった。
午前中、午後の授業も平穏に終わり、放課後の音楽部の演奏会の練習も、スムーズに終わった。
また、「試合日」までの日常も、全く平穏の状態。
とかく悪い噂の多いブラジリアン柔術の道場破りも、ソフィーが発案して全ての格闘技道場に注意文書を送ったため、全て「門前払い」の状態。
決戦前夜、ソフィーの報告があった。
「すでに彼らの国籍も調査済み」
「ブラジリアン柔術と言っても、ブラジル国籍だけではない」
「あちこちの国の兵隊を辞めた人たち」
「元オリンピックの柔道選手もいる」
「中に麻薬産業に深く絡んでいるメンバーがいる」
「それから胆石を発生させる薬は、彼らの中に中東かな、化学兵器工場に勤めていたメンバーが主導している、かなりな高学歴らしい」
光は平静な顔。
「まあ、戦闘力でこちらが負けることはない」
「それは心配いらない」
「それは・・・心配いらないんだけど・・・」
光の顔は、平静な顔から、厳しい顔に変化した。
これにはソフィーをはじめとして、全ての巫女の顔も厳しくなる。
光の目が、鋭く輝いた。
「ここまで、道場破りが続いて」
「道場は名誉があるから、被害報告はしないかな」
「でも、怪しい薬の報告が、大事になっていない」
「マスコミ報道もない」
「・・・となると・・・裏に何かがある」
ソフィーは、その光に反応。
「どこかからの圧力かな」
「となると、予想されるのは、製薬会社、厚生労働省、医師会」
ソフィーは腕を組んだ。
「どこも、利権が絡みあっているねえ・・・」
「製薬会社は健康な格闘選手に怪しい薬を飲ませ、データを収集」
「そんな非道なことをすることのないようにと、本来は監視するべき厚生労働省には、道場破りでせしめた金を使ってバックマージン」
「もちろん、治療した医師にもバックマージン、医師会にも金を渡してあるから、誰も告発をしない」
「厚生労働省だって、裏金は手に入るし、そもそも襲われた道場が、名誉を恐れて被害報告をしない」
光がソフィーに声をかけた。
「官邸にも報告しておいて、それから、忙しいけれど内偵を」
ソフィーは光の言葉と同時に、背中に羽が生え、姿を消している。