由香利の厳しい顔の理由、光も苦々しい顔に
光は、いきなり入ってきた由香利に驚いたけれど、由香利の顔の厳しさが半端ではない。
おそらく、何らかの理由があるだろうと察知する。
校長が由香利に尋ねた。
「もしかして、由香利さんのお父さんの関係する団体にも?」
由香利は、ますます表情が厳しい。
「はい、父の子分が何か所か、空手道場を持っているのですが」
「道場荒らしをされて」
相当痛みが引いてきたのか、楽な顔になった斎藤が由香利に尋ねた。
「ところで、まともな勝負だったの?」
由香利は首を横に振る。
「いや・・・空手道場としては、立ち技のみ」
「その約束で試合を始めても、必ず寝技に持ち込み、腕を極める、首を絞める、足首を捩じる、そんなことばかり」
「不本意ながら、まいったをしても、なかなか離さない」
「靭帯が切れる、あるいは窒息する寸前まで攻撃、それも反則攻撃だけど止めない」
「おまけにビデオをいつの間にか取っていて、世界中に流すとか」
「それが嫌だったら、まずは300万を要求、そして変な薬を売りつけてくる」
斎藤は、頷いた。
「俺の大学と同じ」
「とにかく反則攻撃ばかり」
「坂口さんにも聞いていたし、万が一、俺の後輩のこの学園に来たら困ると思って、少々みっともないけれど、光君に万が一あったら助けてもらおうかと」
春奈は、その斎藤の言葉に納得、お礼を言う。
「そうだったんだ、それで突然来たんだ、なかなか後輩思いだね」
「ありがとう、斎藤君」
ソフィーの顔が厳しくなった。
そして光の顔を見た。
「ねえ、光君、週末に坂口さんの道場って言っているけれど、今日来たらどうするの?」
ソフィーの言葉に、校長、春奈、斎藤、由香利も緊張した。
光は、平然としている。
「ああ、それは大丈夫、ここには来られない」
光が窓の外を指した。
「ほら、あそこに鳥神カルラ」
「アポロも空を飛んでいるし」
キョトンとなる斎藤はともく、「霊力」を持つ校長や巫女たちは、はっきりと見えたようだ。
一様にホッとした顔になった。
「それから」
光は立ち上がって、窓まで歩き、校門を指さす。
「あそこに阿形と吽形が立っているし」
「学園の四隅には、四天王が見張っている」
「悪意を持つ者は、全く近寄れない」
「それでね、光君」
斎藤が光の顔を見た。
「俺以外にも、そのブラジリアン柔術の選手を投げ飛ばしたり、関節を極めた選手もいたんだけど、全く痛そうな顔をしない」
由香利も斎藤に続いた。
「ローキック、ハイキック、突きがみぞおちに入っても、全然感じないような」
「おそらく、痛みを感じない薬を飲んでいる」
「ほぼ、麻薬に近い」
「健全な格闘選手に見えて、実は廃人にされているかもしれない」
「ギリシャ・ローマ世界では、狂戦士、バーサーカと言われている」
光の顔は、苦々しい。